恐竜博2023 #3 光芒突き匙を振るかと。

「知らないことを知っているふりをする事」が一番かっこ悪いと仮定した場合、「知っていることを知らないふりをする事」が一番かっこいいって事になりますよね。ケラトプスユウタです。

今回は国立科学博物館で開催されていた特別展『恐竜博2023』のレポート3回目となります。よろしくお願いします。

NSM PV 24660 (RMDRC 12-020)

AVA (アントマン&ワスプ風に読むとエイヴァ)の愛称で親しまれている亜成体のセントロサウルス類 Centrosaurinae の復元骨格。

過去の旅行記事で複数回登場していますが、2023年にはズール Zuul (前回紹介した鎧竜類)と同じモンタナのジュディス・リバー層 Judith River Formation 産繋がりで実骨が来てくれました。ありがとうございます。

ジュディス・リバー層上部コール・リッジ部層 Coal Ridge Member で、2012年にトリーボルド・パレオントロジー社によって発見され、「アヴァケラトプス」“Avaceratops”とされました。なおRocky Mountain Dinosaur Resource Center (RMDRC, トリーボルド・パレオントロジー社の施設) は2015年にAVAを報告したとき、名前を引用符つきで使っていて、暫定ラベルだと明言しています。そしてついたニックネームがAVA。ラブラドールレトリバーにラブと命名する感じですね。その後、層序的にも形質的にも精神的にも形而上学的にもアヴァケラトプスとは差があり、2014年にはRMDRCの中でも新種だろうという事にはなっていました。

そしていつのまにか科博の所蔵になっており、2023年夏の本展の大阪巡回中の時期に日本人研究者によってフルカトケラトプス・エルキダンス Furcatoceratops elucidans と命名されました。これが恐竜博2019のむかわ竜(カムイサウルス Kamuysaurus)のように命名ブースト(命名を契機に来場者が増える現象)になったかどうかはわかりませんすみませんごめんなさい。余談ですがこの属名は「ラテン語とラテン語化された古代ギリシャ語の組み合わせ」で命名されたケラトプス類のそれとしては、僕の知り限り5例目です。

あと、わかると思いますがこの方は既知のフルカトケラトプスの唯一の標本です。

スカル。

復元骨格マウントの足元には、発見された実骨の一部(おそらく既知の左半身のパーツ全て)が並べられています。

この頭骨は頭頂骨を欠いているものの、現状、ナストケラトプス族の中では随一の完全性を誇るものです。

後眼窩骨(と眼瞼骨)が本来の位置より後ろにずれているのですが、パチプリっと戻すと縦長の楕円形の眼窩になっているのが、わかりますでしょう?

片面だけ見る限り、歯並びも美しいです。

下顎は、記載者である石川弘樹先生の公演(2023)によると、現状研究可能な標本の中では全ケラトプス類中で最良のものらしいです。トリケラトプス Triceratops など保存の良い下顎はあるけど展示用に加工されており満足に観察できないそうな。

復元頭骨では上眼窩角の先端が内向きに曲がっていて先端が触れ合わんばかりの珍しい顔をしていると思われるかもしれませんが、本種にしろこの個体にしろ、別にそういう表徴や個性があるというわけではなく、化石では風化で失われている前頭骨(眉間の部分)を考慮せずに左右の後眼窩骨をつなげてしまっている影響でこういう事になっています。絵画にしろ立体物にしろこの部分がこの復元頭骨のままで復元されているものが多いので要注意です。実際の角の向きは、2本ともやや内側腹側にカーブと言うんでしょうか、そんな二叉のフォーク型で、これがフルカトケラトプス(「フォーク形の角の顔」の意)の由来です。

鱗状骨。縁鱗状骨が全然癒合していないあたり、若さがみなぎっています。

RMDRCによると、側面に特徴的な隆起が連続しているのですが、この様子がアヴァケラトプスでしか知られていなかった事が当初の同定の根拠らしいです。

復元骨格では頭頂骨窓がない姿で復元されていますが、頭頂骨は失われているので直接証拠はないです。トリケラトプスと違ってケラトプス類には一対の頭頂骨窓があるのが普通ですが、アヴァケラトプスではトリケラトプスのように塞がっており、復元骨格ではそれを参考にしているようです。

縁頭頂骨はよく保存されているんですが、ホーンレットの方が強い構造なのでしょうか?

あと縁頭頂鱗状骨が大きめなのが楽しいです。展示されていませんが、右の鱗状骨や縁鱗状骨も知られており、どうも左右非対称らしいいです。最近(少なくとも僕の中では最近)、ケラトプス類のホーンレットの左右非対称な種内変異は普通になってきましたが、フルカトケラトプスの他の個体ではどうだったのかとても気になります。

AVA は頭だけでなくポストクレイニアル(首から後ろ)も、ジュディス・リバー層産のケラトプス類としてもナストケラトプス族(Nasutoceratopsini)としても珍しく、良く保存されています。

前肢も完全に近いです。

第3指爪節骨(末節骨)が小さいのはアヴァケラトプスと共通らしいです。たいていこの骨はしっかりしているものだと思うんですが、なぜ縮小するような進化が起こったのでしょうか?

肋骨もほぼ完全に保存されていて、胴体に関しては日本で拝める可能性があるセントロサウルス類の中で最良と言っていい筈です(というか他に候補者がいない)。

後肢もほぼ完全です。足首から先が見切れてますけど。レイモンドでさえ失われていた尾椎もかなり残っています。

腸骨はトリケラトプスと比べるのもナンセンスかもしれませんが、ずいぶん幅が狭いように見えます。若いからでしょうか?セントロサウルス類はこんなものでしょうか?そして腸骨の狭さは何を意味するのか?

この記事のおわりに

さて!!

AVAの価値は、派手な特徴にあるのではなく、ナストケラトプス類やジュディス・リバー層のケラトプス類で未発見だったパーツを直接提供している点にあります。

ではAVAの存在という名のフォークが突きつけてくるのは、なんでしょうか?

ナストケラトプス族とは何者かという問いに対する答え?

違う!

ジュディス・リバー層のケラトプス類の謎に対する答え?

違う!

むしろ、「わかりません」の輪郭を浮き彫りにします。

ジュディス・リバーの角竜類にしろ、ナストケラトプス族にしろ、頭の形、頭の断片だけで語られすぎてきました。系統樹の枝先として、意味不明な標本番号や外国語の羅列そしてキャラクタだけが先に立っていました。

依然としてわかっているのは少なくともこの系統は、こういう手足、胴体、尾を持ち、このくらいの重さだったらしい。それだけです。なぜそういう形をしているのか、なぜジュディス・リバー層で複数種のケラトプス類が共存できたのはなぜか。僕はこういったことを低い精度ですら妄想できる土俵に立つことができません。

ということで、フルカトケラトプスは、謎を解明した光でも、未来を貫くフォークでもありません。ただ、何かのヒントを仄めかす骨の成れの果てです。

ヒントが与えられると、何を理解できていないのか、または何を理解する事が不可能なのかが、ようやく区別できるようになった気になります。

オマケ: こちら恐竜博2023の公式グッズの一つで中にチョコレートが入っている缶です。

中央に角竜っぽいイラスト。おそらくフルカトケラトプスのイメージだと思いますが、その胴体が文字でデザインされているんです。読めますか。

“AVACERATOPS”

この商品はAVAをアヴァケラトプスとして扱った世界最後の商品かもしれません。

つづきはまた近いうちに。

それじゃ👋

***

参考文献: