見かたをひろげる、ふしぎな恐竜展

二郎系ラーメンは食べたくないけど存在していることが嬉しい。ケラトプスユウタです。

「恐竜展」と聞くと、多くの人が思い浮かべるのは巨大なマウントであったり、保存良好な実骨が陳列されている展示会場かもしれません。しかし、それだけが恐竜展なのでしょうか。今回訪れた大日本印刷のDNPプラザで開催中の『見かたをひろげる、ふしぎな恐竜展』は、そんな固定観念に穏やかに問いを投げかけてくる展示です。

恐竜にある程度触れてきた我々ほど、逆に自分の見かたのクセに気づくかもしれません。今回はそんな視点も含めて、気になった点や印象に残った部分を、個人的な感想として書いていこうと思います。

市ヶ谷駅からDNPプラザに向かう途中の橋の上から見える江戸城の外濠(たぶん)。

はじめて来たのですが、想像より会社の出入口感があって一般的な展示施設よりもウェルカムではない印象を受けました。

DNPといえば大手印刷会社として有名ですが、一般的には街角でよく見る証明写真の機械のイメージでしょうか?

僕にとっては最近の科博の恐竜展のプロジェクション・マッピングが印象的です。

見づらくてすみません。防水カバー的なものがかかっていたもので。

社員食堂かどうか定かではないのですが、DNPプラザ内の飲食スペースで本展(と漫画『ディノサン』)のコラボメニューが提供されているようです。

『ユキのクリームソーダ』は ディノサンのギガノトサウルス Giganotosaurus の「ユキ」の体の色、『トロオドンの巣カレー』もディノサンで特定のエピソードがあったトロオドン類(直接のモチーフはサウロルニトイデス Saurornithoides らしい)の「ニコ」と「ヴェナ」の巣をモチーフにしていることがわかります。

過去のふしぎな恐竜展でもトリケラトプス Triceratops の「マサル」の抹茶ケーキやアロサウルス Allosaurus の「イチゴ」のなんかイチゴ関係のスイーツが提供されていたのをSNSで見ました。

博物館で企画展・特別展のコラボメニューを出すのは日本だとわりと定番ですが、本展のこの環境で毎回新しいコラボメニューが展開されるというのはかなりのこだわりを感じるポイントです。

展示本体ではいろいろやり尽くし、最後に手を出す派生的な所だと思うのでね。

先ほど述べた通り、僕は今回はじめて侵入したのですが、『ふしぎな恐竜展』自体は3度目の開催なんですよね。

過去には『見かたを変える、ふしぎな恐竜展』というタイトルで開催されていた事は記憶しています。今回はそれが“ひろげる”になっているという事です。

福井県立大学恐竜学部をはじめ、「いろいろな人とDNPの関係」の広がり、「恐竜を通した仕事・業界」の広がり、「ものごとを観る視野」の広がりなどいろんな意味がかかってそうです。

ディノサンのマサル

触ってないのでわからないのですが、これって表皮のテクスチャーが復元されていたという事なんでしょうか?

あと、たいてい「ケラトプス類」というと Ceratopsidae (ケラトプス科)の事ですが、角竜類 Ceratopsia (角竜下目)がケラトプス類と表記されていてさすが藤原慎一先生監修だと思いました。(どちらが正しいとか言うつもりはございません)

ディノサンの江ノ島ディノランドのような恐竜園を自分好みにレイアウトできるよーというインタラクティブな展示。念のためこれも触りませんでした。

『ジュラシック・ワールド・エボリューション』というシミュレーションゲームを思い出しました。いま思いましたけど、このゲームってシナリオ上、恐竜園として失敗する/している事に意味がある『ジュラシック・ワールド』よりも、恐竜園として安定している『ディノサン』の方がコンセプト的には合致してますよね。

立体映像。福井の恐竜たちが透明なピラミッドの中でおもむろに回転していました。

今回、わりと目立つ方の展示になっていた、福井県ではお馴染み、巨大なアルカエオケラトプス Archaeoceratops の頭骨を観察する恐竜博士。

彼を福井から連れてくるのはいろいろ大変だったんじゃないかなと思います。

本展はDNPと恐竜学部の連携協定を締結した記念という側面が大きそうな印象を受けました。このバッドランドの無法者ケラトプスユウタとしても、今後のひろがりが楽しみです。

「福井=恐竜王国」という現状ではなく、どうやってそこに至ったかを教えてくれるのが良いですね。

フィールドにおける重機と手作業の両方を並列に語っていて、古生物学が空想でもデスクワークでもなくフィールドワークを礎にしていることも素直に伝わる構成になっています。

ニュースでありがちな「発見しました!すごいです!」で終わらずに、地層や環境の話まで踏み込んでいるのが好印象で、特に「前期白亜紀の環境」への言及があることで、ただの「地域おこしPR」ではなく、古生物学の文脈に乗せようとしている意図が伝わります。

G. Masukawa 先生による北谷産恐竜の骨格図。

発見部位と未発見部位の区別がないのはオーダー通りなのでしょうが、Masukawa 先生の骨格図らしくないです。

産地、地層、時代は6種とももれなく福井県勝山市、手取層群北谷層、約1億2000万年前で同類項なので、全キャプションにいちいち書かずに上の方に北谷層の情報として載せるだけの方が美しいんじゃないかなとは感じました。

北谷層産の獣脚類 Theropoda の大腿骨のレプリカ

ティラノミムス Tyrannomimus のものに似ているそうですが詳しくは不明とのこと。

シンクロトロン放射光X線マイクロCTスキャンというお金のかかりそう(偏見)な研究手法の解説もありました。

アンフィソルス・クダカジメンシス Amphisorus kudakajimensis なる現生の有孔虫 Foraminifera の拡大模型

恐竜を語るのに有孔虫から入るという構造が成立しています。温度や酸素、海水環境を読み取るという有孔虫研究の醍醐味を、専門知識がなくてもイメージできるレベルに落としているのは見事と感じました。

これらの他、10名の恐竜をはじめとする古生物に関わる職業の方々のインタビュー的なパネルがあり(写真は片っ端から撮ったのですが、パーソナルな内容ではあるので当ブログでの掲載は差し控えさせていただきます。悪しからず。)、「恐竜・古生物を好きになったきっかけ」、「仕事内容」、「仕事で大切にしていること」、「子どもたちへのメッセージ」、「恐竜との思い出の写真」が紹介されていました。二次資料のみの展示とはいえ、個人的には本展の目玉展示に相当する存在感がありました。ただし興味深いのは、ここで語られている内容自体は決して突飛なものではないという点です。子どもの頃の体験がきっかけだったり、地道な積み重ねだったりと、過度にドラマチックなものはなく子どもたちが共感しやすいものが比較的多く挙げられていました。それでも印象に残るのは、登場する人々の職業が古生物学者に限らず、漫画家やサイエンスコミュニケーター、声優、芸人、図鑑編集者など非常に幅広いことにあります。

つまり「恐竜に関わる」という行為が、研究という一点に収束するものではなく、それぞれの専門や表現手段を通して多様にひろがっていることが、具体的な言葉として提示されているわけです。このひろがりがあるからこそ、「好く」という行動がどのように社会の中で形態を持つのかが現実的にイメージでき、恐竜に関わるという事がただの夢に終わらない説得力が生まれています。

また、「子どもたちへのメッセージ」も、職種ごとの立場の違いがそのまま言葉の違いとして表れており、一様な励ましではなく、それぞれの距離感で語られているのが、必然かもしれませんが良かったです。

結果としてこのコーナーは、「恐竜を見る」という受動的な体験から、「恐竜に関わる」という能動的な視点へと来場者を引き上げる役割を果たしており、展示全体の中でも心臓に近い存在だったように感じます。

付箋で埋め尽くされていますが、G. Masukawa さんとツク之助さんのフクイヴェナトル(フクイベナートル) Fukuivenator の骨格図と復元画。

おそらく展示意図とは違う結果になっているのではないかとは思いますが、来場者の情熱は伝わりますね。

地下一階にも標本展示がありました。

僕だけかもしれませんが、一階部分だけで展示としては完成している為か順路として組み込まれていなかった為か、この展示区画の存在は危うく気づかないところでした。

実物大くらいのペーパークラフトのアロサウルス・フラギリス Allosaurus fragilis 頭骨。

眼窩が狭くてヤンチュアノサウルス Yangchuanosaurus っぽくも見えますが、横顔が平面ではなく前眼窩窓がちゃんと一段くぼんでいるのが良いですね。ジムマドセニ A. jimmadseni との違いもしっかり表現されていて良いですね。

3Dモデルの展示。僕が非常勤講師として関わらせていただいているTCA東京ECO動物海洋専門学校恐竜校舎ダイナソースクエアのアクロカントサウルス・アトケンシス Acrocanthosaurus atokensis のフラン FRAN をデジタルスキャンされたものです。ブラックヒルズ地質学研究所にオーダーメイドしてもらった商品なのでこれは間違えようがないです。

全アングルから観察したり拡大したりできるのは3Dモデルの長所ですね。見慣れた展示でも物理的に観れない部分が観れます。

TCAのプテラノドン・ロンギケプス Pteranodon longiceps

TCAのティランノサウルス・レクス(ティラノサウルス・レックス) Tyrannosaurus rex スタン STAN

所十三さんの『DINO²』もとい『COMIC恐竜物語 アロサウルスのいた時代』

中学生の時にお世話になった作品で、種小名という概念は所さんにご教示いただいたと言っても過言ではありません。

主人公のトルヴォサウルス Torvosaurus が相棒のケラトサウルス Ceratosaurus と共に竜脚類 Sauropoda 狩りに挑むお話で、アロサウルスの集団はヴィランとして描かれているんですよね。

木下いたるさんの『ディノサン』

アロサウルスのイチゴが登場するエピソード。

読後に残るのはアロサウルスの迫力なんかでは全然なく、割り切れなかった海堂さんの感情の方なんですよね😢

Allosaurus vs Ultrasaurus – John Gurche

これは1992年のナショナルジオグラフィック誌の表紙に使われた絵画です。本作でウルトラサウルスとされているのは今ではスーパーサウルス Supersaurus なのですが、腰が低まったブラキオサウルス Brachiosaurus のような体形で復元されているのも当時主流の解釈だったんですよね?

それにしてもアロサウルスと比べてとてつもない巨体で、二次元ながらすごい迫力です。

アロサウルス(左)とタルボサウルス Tarbosaurus bataar の右足レプリカの比較展示

タルボのアークトメタターサル構造を見よ!と言わんばかりの対比ですね。

ここではどちらも走る速さが時速30kmに達したと推定されており、そうすると相対的にも絶対的にも重いタルボサウルスが速かったという印象になります。

タルボサウルスの左手レプリカ

キャプションでは重い頭とバランスをとるために退化した可能性が示唆されていました。

アロサウルスの右手レプリカ

こちらは獲物を自分に引き寄せる役割があったとの解説付き。恐竜ファンなら誰でも知っていることですが、体のより大きいタルボサウルスの方がより小さいアロサウルスよりも手が小さいという事がはっきりわかりました。

アロサウルス上顎骨レプリカ

アロサウルス・フラギリスの叉骨レプリカ(奥)と脳エンドキャスト

このあたりのレプリカコレクションはすべて所十三さんの私物ということでした。アロサウルスひとつを取ってあまり観る機会のない標本もこれほど収集されているとは、所十三さんの収集力、そして寛容さには感服いたしました。

詳細に解説すると野暮だと思うんですが、この“FRAGILE”の表示が標本ごとに貼られており、大文字かつ引用符で強調してある上に「お手を触れないでください」よりも大きく、直訳でもない。ここにアロサウルス愛があるのがわかります。

アロサウルス・フラギリス頭骨レプリカ

名前はわからないですが、東海大学自然史博物館に展示されていたのと同じキャストのように見えます。典型的なアロサウルスのイメージに符合する優等生タイプ。

やばい位置(前眼窩窓)に強膜輪がずれているアロサウルス・ジムマドセニ頭骨レプリカ

これは日本で拝む機会はあまりない貴重品だと思います。

頬ががっこりとなっていなくてストレートなのがわかりやすく、フラギリスと別種と言われて素人目にも納得感のあるアロサウルスですが、長らく裸名だったんですよね。

会場に併設された書店には、恐竜関連書籍を集めた特設コーナーが設けられていました。展示と書物とが断絶することなく連続し、理解を一過性の体験にとどめない構成は、簡素でありながら周到であります。

先述のインタビューのパネルで紹介されていた人々の著作も少なくないですね。アルゴリズム的に次回はツク之助さんやCANさんのインタビューも加わりそう(無責任予想)。

なんでケンカをしちゃうの?おしえてほしいです。

これは本展とは直接関係ないのですが、DNPプラザに併設されている展示で、様々な分野で活躍する大人たちが子供の特定の疑問に答えてくれるコーナーのようです。

生物学的な視点や形而上学的な視点、八者八様の角度で解答されていて、正直なところ個人的にはふしぎな恐竜展よりも刺さりましたね。これをふしぎな恐竜展と組み合わせて、恐竜・古生物業界の大人たちが一人ひとりの視点で解答するというのも面白いのではないでしょうか?!

レポートは以上となります。

全体を通して感じたのは、本展が「恐竜そのものを見せる展示」ではなく、あくまで「恐竜をどう見ることができるかを示す展示」であったという点です。標本やマウントの迫力に頼らず、キャプション、映像展示、素朴ながらもインタラクティブな展示、その他、周辺展示に至るまでを含めて、一つの視点の連続体として構成されています。「できる展示をやる」という宮澤悠大さんの誠実さを感じる構成です。

キャプションを書いていると付きまとう課題がありまして、それというのはせっかく会場に足を運んで頂いても大多数のお客さん/来場者には基本的には読んでもらえないと僕はもはや開き直ってしまっているのですが、それは一次資料ありきで作っている展示に甘んじているからなのかなと今回の展示を通じて感じました。本展ではキャプション単体で一つの展示として成立しているものがいくつか見られました。

これは一次資料の価値を下げるという話ではなく、むしろ一次資料への到達経路を増やすという意味で有効に働くという考え方です。

結果として、キャプションが読まれないことを前提に設計するのではなく、「読む人にも読まない人にもそれぞれ別の導線を用意する」という発想に立つことができました。

もちろん世の中のあらゆる展示がこの方向を取るべきだとは思いません。標本そのものの存在感や物質性に依存すべき展示では、過剰な言葉はむしろ雑音になります。

その意味で本展の試みは、標本中心の展示とは異なる条件下で成立しているものでもあり、そこを切り分けて考える必要はあるでしょう。

それでも、キャプションというものが単なる付属物ではなく、特別展の展示物としてどこまで自立し得るのかを考えるうえで、今回の展示は僕にとっては一つの具体例を示していたように感じました。

また、福井県立大学恐竜学部との連携という背景を踏まえると、今回の内容はその導入として適当で、今後どのように深化していくのかに期待を持たせるものでした。フィールドワークから教育、社会実装に至るまで、恐竜という分野がどのようにひろがっていくのか、その接点としてDNPがどう機能していくのかは、ちょっと様子を見てみようじゃないかと言うところです(上から目線)。

個人的には、教育機関との接続という意味で、TCA東京ECO動物海洋専門学校のような実務寄りの現場とも何らかの形で関わってほしいと感じました。具体的には、恐竜校舎は普段一般開放していないだけに、ダイナソースクエアおよびアースラボ全体のバーチャルツアーができるようになると、いつでもどこでも展示物を観ることが(少なくとも技術的にには)できるでしょうし、足の不自由な方も擬似的に来館できて良いのではないでしょうか。もちろん標本ごとの3Dモデルが重要なのは大前提としてですよ。

展示規模としては決して大きくもないですし密度も高いわけではないですが、「恐竜展」という言葉に対してある程度イメージが固まっている人ほど、一度立ち止まり、見かたをひろげる価値はあるでしょう。

今後、この“ひろげる”という方向性がどこまで展開されていくのか。恐竜学部との連携の深化とあわせて、その続編を楽しみにしたいと思います。

見かたをひろげる、ふしぎな恐竜展』は市谷のDNPプラザにて2026年6月20日(土)まで!入場無料。

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帰りに頂いた『北海道らーめん 熊源』のみそラーメン。おいしかったです。

それじゃ👋