ちば恐竜博 驚異の捕食者(ハンター)たち

みなさん映画『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』観ましたか? ケラトプスユウタです。

表題の通り、2026年7月11日から9月27日まで千葉県立中央博物館で開催の特別展『ちば恐竜博 驚異の捕食者(ハンター)たち』へ侵入しましたのでレポートします。

タイトルから想像できる通り、肉食恐竜がメインの展示会。

数年前に恐竜の特別展が開催されていた時にも侵入したので、この博物館への侵入自体は2度目です。

ちなみに恐竜保育士み〜やさんと共に、千葉市科学館の『ちばディノランド』の後にハシゴで行きました。

企画・製作はもちろん、復元画も恐竜くん(田中真士さん)の手によるもの。「恐竜くんの肉食恐竜の展示会」というと、僕は2020年の『宮城肉食恐竜展』を思い出します。

企画展示室外のエントランスで早速ケラトサウルス Ceratosaurus の一種、ケラトサウルス・マグニコルニス C. magnicornis が出迎えてくれました。

絶対的には新種とは言い難いですが、ケラトサウルス・デンティスルカトゥス C. dentisulcatus と共に2000年に記載された比較的新しい種で、今日のところ4種が有効とされるケラトサウルスのうちの一種らしいです。

前からのアングル。

日本初公開ということで僕も初めてみましたが、思っていたほどゴツくなく、ケラトサウルスらしいケラトサウルスという印象を受けました。脳函と角状突起の違いから新種記載されたそうですが、ケラトサウルス・ナシコルニス C. nasicornis の成体という説もあるらしいです。

福井県立恐竜博物館などで見るナシコルニスのこども的なやつと比べてかなり大きく、エントランスに置いても見栄えのするマウントだと思います。

ケラトサウルスは歯が大きいので大物狩りのハンターと考えられてきましたが、この大きな歯は獲物を素早く食べ終える為に好都合という解説がありました。これにはケラトサウルスのいた動物相には他にも大型肉食恐竜が暮らしていたのでそういう戦略が必要だったという含意をビシビシ感じます。

ケラトサウルスに追われる2体のドリオサウルス Dryosaurus

同型の商品の脚のポーズを変えて個性を出しているように見えます。

個人的には接地している脚を後ろに伸ばした方が自然かなと思うので、手前の個体は走り方がちょっと面白く見えます。

企画展示室入り口。上の2体が枠をはみ出しているのが良いですね。

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第1章 肉食恐竜の基本

DNPの『見かたをひろげる、ふしぎな恐竜展』でも展示されていた所十三さんのアロサウルス Allosaurus コレクションで獣脚類の基本をおさらい。

ちなみに最近知ったのですが、この前眼窩窓に強膜輪が来ている頭骨にはドラキュラ Dracula というニックネームがついているそう。

鳥盤類 Ornithischia 代表として角竜類 Ceratopsia プシッタコサウルス・メイレインゲンシス Psittacosaurus meileyingensis

全身の構連骨格で獣脚類と比較できるようになっているわけですね。展示の中で恐竜類の基盤的形質である二足歩行が活かされています。

恐竜類の進化史を学ぶ上でよく登場する最古級の竜盤類 Saurischia ヘレラサウルス(ヘルレラサウルス) Herrerasaurus 頭骨。

基盤的獣脚類エオドロマエウス Eodromaeus

この辺りは科博の特別展でも馴染みの仲間たちです。

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第2章 多様に進化した大型肉食恐竜

2種のケラトサウルス類 Ceratosauria 頭骨

ケラトサウルス・ナシコルニスマジュンガサウルス・クレナティッシムス Majungasaurus crenatissimus

ここからテタヌラ類 Tetanura になりました。

アロサウルス・ジムマドセニ Allosaurus jimmadseni

相変わらず前後長のある鼻孔がかっこいいですね。

おそらく最も人気のあるメガロサウルス類(上科) Megalosauroid スピノサウルス Spinosaurus

僕にとっては『宮城肉食恐竜展2020』の思い出の一品。

キャプションでは今年6月に論文が出版されたばかりの Andrea Cau 先生らのスピノサウルスの塩類腺の研究について触れられており、少なくとも本展開催1ヶ月前というギリギリのギリまで解説がまめに推敲・更新されていた事が伺えます。それが本展で一番驚いたポイントです。

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第3章 羽毛をまとったハンターたち

ここからコエルロサウリア Coelurosauria になります。有名なバイエルン州立古生物学所蔵のコンプソグナトゥス Compsognatus のホロタイプ。

シノサウロプテリクス Sinosauropteryx

スキピオニクス Scipionyx

これは『恐竜博2023』の序盤で展示されていたレプリカですか?

ユタラプトル Utahraptor

そう言えばダコタラプトル Dakotaraptor は怪しさが増してきたから留守番でしょうか。

オウギワシ Harpia harpyja

現生鳥類を展示全体の終着点に置くのではなく、羽毛恐竜をたどる流れの途中に自然に配置しているのも好印象でした。鳥類は獣脚類の進化の頂点ではなく、数ある獣脚類の系統のうち、たまたま現代まで生き残った一系統にすぎません。「獣脚類の進化の果てに鳥が現れた」という一本道の物語にせず、鳥類を獣脚類の多様性の中に置いて見せるという展示構成からも、進化を直線的に捉えない意識が感じられます。

お馴染み、デイノニクス Deinonychus に飛びかかられるテノントサウルス Tenontosaurus

これいつも同じ組み合わせで展示されているのでベースが連結しているのかと思っちゃいました。

恐竜くん関係の展示会では初めて見た気がします。

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第4章 現生のハンターたち

肉食恐竜メインの特別展でありながら、ここでは現生の肉食哺乳類の頭骨がこれでもかというほど並びます。一見すると寄り道のようですが、「肉食」という生態を考えるための重要な比較材料として機能しているとお見受けしました。

動物を食べる動物という点では同じでも系統は違う。その中で、獲物の種類、捕らえ方や食べ方が同じだったり違ったりすることで、歯の形にはどう現れるのか。系統が離れているからこそ似た動物を捕食していても歯の形が違うのか、はたまた系統が離れているのに似た動物を捕食するので歯だけは似ているのか。

「肉食動物はこういう形が正解」というものはなく、恐竜を目にしたうえで、現生肉食動物の多様性を見ることで、頭骨も単なる「恐ろしげな顔」ではなく、それぞれ異なる方法で狩猟を成立させて暮らしていた命の形として見えてきます。

あと気づいた限り全てダブルヘリックスさん(恐竜くんの会社)の所有物なのですが、これセットで売ってるんでしょうかね。全部かはわかりませんがほとんどは Bone Clones の製品とお見受けしました。

ガンジスカワイルカ Platanista gangetica

すごい形してます。脳函の左右から前方へ張り出している巨大な「板」みたいな部分、調べたところこれは上顎骨のクレスト maxillary crests らしいです 普通のイルカの頭骨にはないので「何だこれ?」となりました。

本種はこの左右のクレストがメロンを左右から取り囲むような配置になっていて、内部には気嚢が入り込んでいるそう。この構造がエコーロケーション、特に音を前方へ集中させることに関係している可能性が考えられているらしいです。海よりも濁って視覚に頼りにくい河川環境で暮らすカワイルカには、重要な仕組みなのでしょう。

ガボンアダー Bitis gabonica

上顎の長い毒牙が2対もあるんですね。

パーソンカメレオン Calumma parsonii

角竜類のフリルも基本的には頭頂骨と鱗状骨が後方へ大きく発達したものですから、カメレオンのカスクを見て角竜類のフリルっぽいと感じるのは単なる見た目の類似だけではなく、相同な頭骨要素がそれぞれ独自に発達して似た構造を作っているわけです。似ていると言ってもカメレオンの場合、ここに軟組織がつくので役割としても生体の見た目もだいぶ違うとは思いますが、ロバート・マクローリン先生の(残念ながら)有名な1970年代のケラトプス類復元を彷彿とさせなくもないです。マクローリン先生は角竜類のフリルの前後を、現在コンセンサスが得られている「薄い皮膚で覆われ板」としてではなく、かなり大胆に顎や頸の筋肉と結びついた肉厚な構造として復元しました。フリルの開口部や縁を、現生爬虫類の側頭部のように筋肉が占めるという発想ですね。

イリエワニ Crocodylus porosus

本展でこのサイズの現生ワニ頭骨を展示する意義は大きいと思います。現在にもこれだけ巨大な頭骨を持つ捕食性主竜類が生きているという事実が目の前にあるわけですから。

バナナワニ園行きたいね。

大きな口に手足が生えたような ゴリアテガエル(ゴライアスガエル) Conraua goliath

舌を伸ばして小型哺乳類を捕食するそう。

ホホジロザメ Carcharodon carcharias

多生歯性にもいろいろあるんだなぁという展示ですね。

コモドオオトカゲ Varanus komodoensis

恐ろしいトカゲ!🤓

この展示は先ほどの現生動物の頭骨コレクションの正面の島に配置されているのですが、その島には同じ有鱗類のモササウルス Mosasaurus も置かれており、一度現代に戻された我々を白亜紀に戻す橋渡しとして機能していないこともないです。

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ここから第5章『太古の海の支配者たち』

モササウルスのウォーカー Walker

個人的には、2023年の『恐竜科学博』でも目玉展示の一つだった印象が強いモササウルスの全身骨格。巨大なマウントだけあって、今回の展示でも圧倒的な存在感を放っています。モササウルスは本展のキービジュアルにも登場しており、肉食恐竜だけにとどまらず、中生代のハンターを広く見せる存在としてかなり推されている印象です。

イクティオサウルス(イクチオサウルス) Ichthyosaurus

メアリー・アニングに発見されてそうな顔してます。

ここに来てリアルな千葉ローカルの化石。

千葉県銚子市犬吠埼層(下部白亜系アプチアン階)の海生爬虫類の椎骨の断片だそうです。

魚竜類だとすると東アジア初の白亜紀の魚竜類化石ということになるそう。

犬吠埼層のサメの歯

犬吠埼層の展示は標本の滋味深さやキャプションからするとほぼ恐竜くんの手はかかっていない印象を受けました。一般的な地方博物館のお手本のような、現実的でありながら銚子の有望さを感じさせる展示です。

追記: 図録でこのあたりの展示のみ千葉県立中央博物館の伊佐治鎭司さんの手によるものという事がわかりました。

この標本は六本木で開催された恐竜科学博で初公開されたやつだからおぼえています。

エラスモサウルス Elasmosaurus の幼体

いつも言ってるけど頸の長い長頸竜類ってなんで頸が長いんでしょうか?

ヘスペロルニス Hesperornis

最近ヘルクリーク層産の恐竜のコプロライトからヘスペロルニス類のものとされる大腿骨片と脛足根骨片と羽毛が発見されたので非常にタイムリーです。

非恐竜類の中生代海棲爬虫類たちの中に純然たる中生代海棲恐竜がしっかり展示されている事が嬉しいです。

奥の復元画も好きです。

ドゥンクレオステウス(ダンクルオステウス)・マルサイシ Dunkleosteus marsaisi

よく見る本属は北米産の D. telleri なのでモロッコの本種はレプリカと言えど個人的にはけっこう珍しいと思います。

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最後の巨大肉食恐竜

今度はデボン紀板皮類から強引に白亜紀獣脚類に戻って来ました。

お馴染みゴルゴサウルス Gorgosaurus のルース RUTH

ティランノサウルス類 Tyrannosauridae の病変から推定される晩年からしに至る個体史を説明する上で定番の地位に君臨しています。

アリオラムス・アルタイ Alioramus altai

なんかゴルゴサウルス見た後だと両端を掴んで引き伸ばしたみたいな顔ですね。

ラプトレクス Raptorex

「どんなに素晴らしい化石も、適切な記録がなければ科学的な意義は大きく失われてしまう」

恐竜くんのハンターメモが突き刺さります。

ティランノサウルス(ティラノサウルス) Tyrannosaurus のスタン STAN

これがないはずがない。

ティランノサウルスが生きた獲物を襲っていた証拠の数々。

トロサウルス Torosaurus のニコール Nicole 左鱗状骨

ティランノサウルスの噛み跡があるのでトロサウルスでありながらティランノサウルスの生痕化石にもなっているという凄いお方。

2種のナノティランヌス Nanotyrannus がこうやって並べて展示されたのは日本初ではないでしょうか。去年相当話題になったジェーン JANE をはじめとするナノティランヌスの T. rex からの独立(有効属化)と N. lethaeus 新種記載。最近のティラノサウルス類研究の中でも激動と言えそうな話題を、早くもレプリカを見比べながら追える展示になっているという事です。

長らく「若い T. rex なのか、別属の小型ティラノサウルス類なのか」で議論され続けてきたナノティランヌスですが、いまや論点は「ナノティランヌスは存在するのか」という次元ではなくなり、ナノティランヌスの中にさらにどれほどの分類学的多様性があったのかというところまで進みつつあるんですよね。ニュースからは10ヶ月経つわけですが、目の前で2種の頭が並んでいるというスピード感はすごいと感じます。

🔺は、噛まれた跡とされるジェーンの傷。

「おわりに」でも最初の企画書に「ナノティラヌス」について「若いティラノサウルス」と書かれていた旨が書かれていますね。

恐竜研究は日進月歩、昨日の新説が明日の旧説。

さて!『ちば恐竜博』、やはり恐竜くんこと田中さん、素晴らしいのは2026年7月現在で最新である可能のある研究を並べていながら、展示を作っているそばから情報が旧くなり始めるという事実を最初から受け入れている事です。

「未来から見たら旧い」という自覚すらないまま、どの恐竜図鑑にも書いてあるような基本的な事しか言っていないような、「ごくたまにある恐竜展」とは比べるのも失礼なほど雲泥の差があります。

あと本展は獣脚類が主役と言う事もできるかもしれませんが、これは正しくないですね。獣脚類の中でも雑食や草食(植物食)と思われるものは意図的に排されています。その一方で恐竜以外の肉食動物にはかなりのスペースが割かれていました。つまり本展の主役は「肉食性」という食性だったわけです。

本展は肉食動物を「正解を教える教材」ではなく、知識が書き換わっていく媒体として見せているように感じました。

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参考文献

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帰りに千葉駅のビレッジバンガードカフェみたいな名前のレストランに侵入し、タコライスを頂きました。おいしかったです。なおこの店舗は7月いっぱいで閉店されたそうです。悪しからず。

それじゃ👋