大絶滅展 生命史のビッグファイブ #4 T-J境界

恐竜好きだからって『ジュラシック・ワールド』シリーズを全部観た事があると思うなよ。ケラトプスユウタです。

さあ、始まりました大盛況のうちに閉幕した国立科学博物館の特別展『大絶滅展 生命史のビッグファイブ』のレポート。今回はビッグファイブの4回目『T-J境界』を紹介するチャプター4の紹介になります。

なんだっけこれ?

パンゲアの分裂を示す溶岩(玄武岩)(モロッコ 三畳紀/ジュラ紀)(実物)か。

約2億年前、T-Jイベントはビッグファイブの中で三番目に大きな規模だったと言われています。
この時は海の生物の属の43~46%、種で言うと70~73%が絶滅。
陸上では属の41%、種の70%が絶滅したと説明されています。


この時期、パンゲアが北のローラシアと南のゴンドワナに分裂を開始。大地溝帯が形成され、海水が侵入→細長い北大西洋が出来たそうです。


北大西洋の両岸で火山活動が活発化すると、大陸の分裂は更に激化したとの事。
火山の影響で大量の二酸化炭素が発生すると、温暖化と共に大気中の酸素が少なくなり、生物に大打撃を与えた。

三畳紀ってパンゲアの内陸部の極端な砂漠性気候が乾燥に弱い生物を淘汰したという説明も聞いた事あるんですけど、その話はまたT-Jイベントとは直接関係ないんでしょうね。よく考えるとそれは三畳紀最初期に起こりそうな話でもありますね。

コクロケラス(コクロセラス) Cochloceras

タニシのような塔状に殻を巻く三畳紀後期のアンモナイトだそうで、これも異常巻きのバリエーションの一つのようです。軟体動物全体からすると「異常」とは思えないですよね。

ニュージャージー産の獣脚類 Theropoda の足跡化石、グララトル(グラレイター) Grallator

ユタ州の某博物館ではこの手の足跡化石はコエロフィシス Coelophysis やディロフォサウルス Dilophosaurus のものとして扱われていたので個人的にはそのイメージが強いです。

ポストスクス・キルクパトリッキ(カークパトリッキ) Postosuchus kirkpatricki 頭骨

恐竜類 Dinosauria 以前の頂点捕食者として王道のチョイスと言えるでしょう。

ポストスクスは研究史的なネタでしばしばティランノサウルス Tyrannosaurus と比較されますが、この画像だと眉の隆起がかなり目立つのでカルノタウルス Carnotaurus に似てると思っちゃいました。

ステージがずいぶん埃っぽいなあ!あんま言うとあれか。しかしあれだけの来場者が連日訪れるともなると無理もないのかもしれません。

エッフィギア(エッフィジア)・オケエッフェアエ Effigia okeeffeae

キャプションでは「エフィッジア」になっていますが、おそらく「ッ」の位置を間違えていると思います。ちなみにこの属名はラテン語で「幽霊」の意味だそうで、発見場所のゴーストランチの地名に由来しています。

この標本はレプリカとはいえ初めて観ました。

2006年の記載当時、「二足歩行のワニ(Bipedal Crocodile)」として報じられていたのを憶えています。もちろん厳密には非ワニ型偽鰐類 Non-crocodilian Pseudoschia ですけど。

腸骨の長さと仙椎の多さが恐竜類 Dinosauria と共通しているのがおもしろポイントなわけですが、これも二足歩行への収斂あるいは並行進化に付随する進化と見て良さそうです。

足首まわりが未発見だったら恐竜類に分類されていてもおかしくないんじゃないかと考えてしまうほど恐竜類じみています。

コエロフィシス・バウリ Coelophysis bauri

おそらく三畳紀産の化石の中でもっとも有名な標本(AMNH FR 7224)。

蛇足になる為か、お腹のヘスペロスクス Hesperosuchus についての言及はありませんでした。

アシリサウルス・コングウェ Asilisaurus kongwe

科博の恐竜展の常連その1。

今のところシレサウルス類 Silesauridae は非恐竜類型恐竜形類 Non-Dinosaurian Dinosauriformes とされていますが、明日にはどうなるかわからないと僕は思ってます。(非恐竜類型恐竜形類って日本語的にキモいですね)

キャプションでは「アジリサウルス」表記でした。そうとも読めるとは思うのですが、ふつうアジリサウルスというと中国の Agilisaurus (アギリサウルスとも)を指す気がしますし、そうでなくても紛らわしいので「アシリサウルス」と表したいですね。僕は。

なおいつぞやの科博の特別展では「アシリサウルス」表記でした。

科博の恐竜展の常連その2。

エオラプトル・ルネンシス Eoraptor lunensis

エオラプトルってドチビのイメージあるかと思うのですが、こうやってシレサウルスと比べると一回り以上大きいんですね。それぞれの成長段階がどうかは知りませんが。

なおこの画像は名古屋会場で撮影したものです。

ヘルレラサウルス(ヘレラサウルス) Herrerasaurus 頭骨

この恐竜、個人的には頭より腰がおもしろくて、癒合仙椎が3個未満と恐竜類最少で恐竜じゃないエッフィギアの4個よりも少ないので、あの、常設に全身骨格があるので、それをここに持ってきていただければ理想的でした。

レドンダサウルス・グレゴリィ Redondasaurus gregorii

おそらく本展でもっとも迫力があって見栄えのする展示物。この頭の相対的・絶対的な大きさ、それに見合った巨大な口、手足の短さゆえの重心の低さ。すべてが魅惑的です。

オリジナルはニューメキシコのアルバカーキ自然科学博物館で拝んだものかと思うのですが、このレプリカは福井県立恐竜博物館の特展『恐竜の大移動』で初公開されて以降、出張組に配属された標本ですね。

「広義のワニ」と言う説明を複数方面から聞いたのですが、主竜類 Archosauria ですらない植竜類 Phytosauria を「広義のワニ」に含めてしまうと、トリケラトプス Triceratops やプテラノドン Pteranodon や鳥類 Aves も含むすべての主竜類もそれに含めなくてはならなくなるんじゃないですかね?と思うのですが、「広義のワニ」というのは系統はさておいて、ざっくりとした見た目での分類という事なんですかね?そうするとそれこそエッフィギアやシモスクス Simosuchus などのようなワニっぽくない擬鰐類はどういう扱いになるのかとか考えてしまいますよ。

あと鼻孔の位置が目の近くにあるのがワニとの違いなのに、大絶滅展コラボゾイドの『レドンダガブリゲーター』は吻端に鼻孔らしきものがあるのが納得できませんでした。どうもすみません。

争っているようにしかみえない2体ですが、よく見るとレドンダサウルスの方のステージが茶色で、クリオロフォサウルス Cryolophosaurus の方がオレンジ色になっているんです。そう、生息年代が三畳紀後期とジュラ紀前期、ついでに言うと産地も北米と南極で大きく離れているので出会うはずのない二体なんですねえ。うんうん。

クリオロフォサウルスという展示物の選抜は、T-J境界の生存組を代表する上でモロにうってつけだったと思います。三畳紀前期の恐竜で借りれるやつ、かつ見栄えのするものってかなり限られると思うんですよ。

クリオロフォサウルスは、北九州市立自然史博物館(いのちのたび博物館)の、アロサウルス Allosaurus に似せたタイプの復元。まあ我が国で拝めるクリオロフォは僕の知る限りそのタイプしかないんですが。ロサンゼルスとオーストラリアでそれぞれ異なるタイプの復元骨格があり、少なくとも3タイプ存在しています。

というかそもそもは2009年の科博の特別展『大恐竜展 知られざる南半球の支配者』のために購入された標本のはずなので、凱旋とも言えるものだったのかもしれないですね。

ちなみにこのクリオロフォはゴビサポート・ジャパンの仕事で設営・撤収のお手伝いをさせていただいたものです。ありがとうございます。

だから言えるトリビアが一個あります。大型獣脚類のマウントって普通は頸椎と胴椎は別パーツになっているんですが、このクリオロフォに関しては頸椎と胴椎が1ピースになっていて、そのせいで重いんです。

三畳紀末の大絶滅の後、アンモナイトはほんの数種のみが三畳紀末の大量絶滅を逃れたに過ぎなかったようですが、その生き残りたちは世界中の浅海域で繁栄し、多様なグループへと分化していき再び繁栄を極めていったそうです。

現在、結果的にアンモナイトは絶滅してしまっていますが、それでもこの一連の流れを見ていると、単に「絶滅した生物」として片付けるにはあまりにも粘り強く、しぶとい存在だったように思えてきます。

一度ほとんど消えかけた系統が、そこから再び広がり、形を変え、役割を変えながら世界中の海を満たしていく。その過程は決して一直線の成功ではなく、細かく見ていけば分岐ごとに興隆と衰退が繰り返されていたはずで、それでも全体としては長い時間をかけて「繁栄しているように見える状態」を保ち続けていたわけですよね。

だからこそ、最終的な絶滅という結末だけを見ると見落としてしまいがちですが、アンモナイトの美しさは、むしろその途中にあった無数の立ち上がりと崩れの積み重ねにあったのではないかと思います。何度も形を変えながら生き延び、海の中で居場所を作り続けてきたその時間の長さを思うと、「絶滅した」という事実以上に、「そこまで続いた」ということ自体に、強い存在感を感じさせられます。

プロトスクス Protosuchus

左向き矢印に手足が生えたみたいなシンプルなワニ形類 Crocodylomorpha。三畳紀に隆盛を誇った擬鰐類ですが、ワニ形類を残して三畳紀末の大量絶滅で地球上から姿を消したと考えられています。

ヘテロドントサウルス Heterodontosaurus

科博の恐竜展の常連その3。

三畳紀の鳥盤類 Ornithischia というのがはっきりしないものばかりなので、いつまで経ってもジュラ紀前期の鳥盤類であるヘテロドントが基盤的鳥盤類枠で引っ張りだこです。

「ステネオサウルス」”Steneosaurus

図録によると、「この属の命名の元になった標本には、ほかの属とはっきり区別できる特徴がないため、ステネオサウルスを疑問名(無効な名前)とするという論文が発表された。その結果、従来この属に含まれるとされていた種の分類が見直されるようになっている。」(原文ママ)とのこと。

「研究初期に命名されて後に疑問名になった学名」あるあるです。それで引用符付きだったんですね。会場のキャプションでは説明されていなかった事だと思います。

なお、疑問名は無効な名前ではないです。疑問名 nomen dubium は命名規約で言う無効名nomen invalidum と違って、あくまで分類学的な位置づけや同定に疑義があることを示す表現にすぎず、国際動物命名規約(ICZN)における適格な公表・記載・模式標本の指定などの要件を満たしていれば、その学名自体の成立は妨げられないため、形式的には有効名 nomen validum として扱われます(ICZN, 1999)。

恐竜類の行跡化石

本展唯一のジュラ紀後期からやってきた展示物(レプリカ)。

スイス北西・ジュラ州の都市ポラントリュイ近辺に分布するジュラ紀後期の干潟の堆積物に残された恐竜類の足跡化石群の一部。乾湿サイクルによる高保存性のもとで長大な行跡が形成され、竜脚類 Sauropoda 、獣脚類 Theropoda などの足跡を記録しているんですよね。

なお、図録ではスイスではなくスペインになっていますが、ポラントリュイはスイスです。

これらはスイスの JURASSICA Museum 所蔵らしいのですが、わざわざ借用してくださったんですね。物価高にあって、ありがたい事です。

これらは恐竜類が沿岸環境を日常的に利用していたことを面で示す点が特に重要かなと思います。

さて!いかがだったでしょうか。

第4章にきて気づいたのは、まず第1〜3章までで徐々に標本数が減っているという事。カンブリア紀〜オルドビス紀までが本展のメイン展示であり、中生代にもなるとオマケの展示感が出てまいりました。いや、序盤が展示品豊富すぎるというだけのことで、第4章の展示数も決して期待を下回ってはいません。あとコープの法則ではないですが、古生代と比べて動物が目に見えて大型化している関係で、単純にスペースの兼ね合いもあるでしょう。

次いでこの章で感じたのは、キャプションの語り口がそれまでの章と少し違うという点でした。古生代のパートでは、各化石について「この生物はどんな環境で生きていたのか」「周囲にどんな影響を与えていたのか」「どのような進化の流れの中にいるのか」といった、生態や進化の文脈に焦点が当てられていて、標本が“生きていた存在”として立ち上がってくるような説明が多かったように思います。

それに対して、この第4章、T-J境界の区画では、「この形質をもつからこの分類群に入る」といった、形態と分類にフォーカスした説明が中心になっている印象を受けました。古生物学として重要な視点です。一方、大絶滅というテーマとの結びつきはやや弱く感じられ、標本の説明に寄ってしまっているように感じました。

この違いは、おそらく執筆者の関心やスタイルの違いがそのまま出ている部分なのだと思います。古生代パートが「生物と環境の関係」を軸に物語を見せていたのに対して、第4章は「形質から分類を考える」という、もっと記述的なアプローチが前に出ているという印象です。

そのため、第4章単体として見れば情報としてしっかりしているのですが、展示全体が伝えようとしている「大絶滅の中で何が起きたのか」というストーリーとのつながりという意味では、やや控えめに感じられました。生態や環境との関係に踏み込んだ説明があれば、前後の章との連続性がよりはっきりしたのではないかとは思います。對比地先生許してください。

次回はいよいよトリケラトプスを絶滅させた事で悪名高い有名な「K-Pg境界」に踏み込みます。

それじゃ👋

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参考文献:

  • International Commission on Zoological Nomenclature (ICZN) (1999) International Code of Zoological Nomenclature. 4th edn. London: International Trust for Zoological Nomenclature.
  • 国立科学博物館・NHK・NHKプロモーション・読売新聞社(編)(2025)『特別展「大絶滅展―生命史のビッグファイブ」Special Exhibition: Mass Extinctions−BIG FIVE』東京:読売新聞社。