種名は「属名+種小名」です。種小名=種名ではないです。ケラトプスユウタです。
“命がけの発掘調査に、今日も旅立つ者がいる。密かに眠る化石を収集・保管・研究するために、あらゆる困難を乗り越え進む、化石ハンター達。”
『化石ハンター展』は確か2022年の国立科学博物館の特別展です。盛況だったので行かれた方も多いと思います。いかがだったでしょうか。
ここで言う「化石ハンター」とはジョン・ハッチャー、バーナム・ブラウン、スタンバーグ一家と言うよりロイ・チャップマン・アンドリュースの事です。
アンドリュース先生はアメリカ自然史博物館在籍中の1920年代〜1930年までのゴビ砂漠の探検、特に恐竜類の卵の最初の発見で知られる有名な化石ハンターです。
彼はインディアナ・ジョーンズのモデルないしそうではないとしても、20世紀初頭のアメリカ人探検家/冒険家のステレオタイプのイメージに影響を与えた人物の一人とされる人物でもあります。

イワシクジラ Balaenoptera edeni
アンドリュース先生って何度か自叙伝を書いてるんですが、捕鯨船に乗って調査している時、“牽引していたクジラの死骸にサメが群がってきた” が次に書かれた時には “船員がサメだらけの海に落ちた” → “船員がサメに噛まれた” とドラマがエスカレートして行ったんですよね。アンドリュース先生の人を楽しませようとするエンターテイナーな人柄が垣間見えるようです。
側頭窓が巨大なので噛む力が強そうですが、調べたところ、咬合のためではなく濾過摂食時の巨大な力に耐えるための構造のようです。

プシッタコサウルス Psittacosaurus sp.
中国遼寧省で発見されたミイラ化石です。見ての通り上下方向からペシャンコになってはいるものの、関節した完全な骨格。
種不明という事でしたが、遼寧省産・関節付き完全骨格という条件を満たしそうなのは既知の種だとすると、Psittacosaurus lujiatunensis の可能性が高いかもしれませんが、これだけ潰れていると僕にはわかりませんすみませんごめんなさい。

上記の標本を元に造られた復元骨格。
アンドリュース先生は、『哺乳類ひいては人類の起源はアジアにある』という、ヘンリー・オズボーン師匠の説を証明しようとゴビ砂漠探検を遂行したそうです。プシッタコサウルスはアンドリュースの相棒、ウォルター・グレンジャー先生が1922年にゴビ砂漠で最初に発見、翌1923年にオズボーンが記載した恐竜です。プシッタコサウルスは角竜類 Ceratopsia ですが、当初はイグアノドンIguanodon よりも基盤的な鳥脚類 Ornithopod と考えられていました。それ以前は角竜類といえば目立つフリルや角を備えた北米産のものしか知られていなかったので無理もありません。
プシッタコサウルスの研究史はともかく、コロナ禍がなければそのホロタイプが来る筈だったのではないでしょうか。

プロトケラトプス・アンドレウシ(アンドリューシ) Protoceratops andrewsi
アンドリュースといえばこの角竜類だ。
この構連骨格だと四肢ともにがに股っぽく造られていますが、実際は(ケラトプス類 ceratopsidae とも違って)身体から地面に向かって垂直に立っていたと思われます。
伝説によると、アンドリュース隊がバヤンザグ Bayanzag いわゆる「炎の崖(Flaming Cliffs)」で発掘を行った際、プロトケラトプスをはじめとする多数の完全な骨格や卵化石が予想をはるかに超える量で発見されたそうです。
しかし、発見数があまりにも多かったため、あらかじめ用意していたジャケットの素材(包帯や麻布)が不足してしまったそうです。
そのため探検隊は、やむを得ずテント、タオル、衣類、寝具などを代用し、化石を保護したそうです。これは即興だったのかもしれませんが、標本を破損させずにアメリカまで安全に輸送するための合理的な措置だったように思います。
このことは、炎の崖における発見が、当初の想定を遥かに超える規模と重要性を持っていたことを物語っていますね。
結果として、これらの標本は世界で初めて恐竜の卵と巣構造を科学的に確認した証拠となり、またプロトケラトプスの全身骨格を詳細に理解する資料となりました。

プロトケラトプスはかっこよさだけでなく、成長段階ごとの化石も充実しています。これは日本では珍しい6体もの成長段階別のプロトケラトプスの頭骨を並べた展示です。誰でもわかると思いますが、右の小さい幼体から左の大きな成体のように個体発生していったと考えられています。
これを超える規模のものはアメリカ自然史博物館でしか観たことがありません。






シンプルに顔が大きくなっているばかりか、フリルの相対的な大きさ、頬骨突起の張り出し、鼻骨の隆起など複数箇所の比率が変わっているのがわかりますでしょう?
以前はこういった差の一部は雌雄差でありプロトケラトプスの性的二形として語られていた事もありますが、今日のところそれらの全てが成長段階の差で説明されており、多くの恐竜類同様、プロトケラトプスの雌雄差は依然として謎に包まれています。

恐竜の卵
炎の崖から発見されたので、発見からしばらくの間、プロトケラトプスのそれと思われていたのですが、胚が見つかった事で現在はオヴィラプトル類 Oviraptoridae のものとわかっていると言うのは有名な話。ちなみに今日プロトケラトプスの卵は、主竜類の基盤的な卵として想定される柔らかい殻をもっていたとされ、化石として残りにくいものだったと考えられています。とは言え、その化石証拠自体は報告されています。

バクトロサウルス Bactrosaurus

アルカエオルニトミムス(アーケオルニトミムス) Archaeornithomimus
図録によるとバクトロサウルスとアルカエオルニトミムスは、1923までの調査で発見されていたそうですが、ここには展示のないアレクトロサウルス Arectrosaurus 等ともども1933年にチャールズ・ギルモア先生が着手するまで記載されなかったそうです。地味だからかな?!
またアルカエオルニトミムスは記載時はオルニトミムス属 Ornithomimus に内包されていましたが、1972年にデイル・ラッセル先生によって再記載され今の学名になったようです。

ヘユアンニア Heyuannia
恐竜類としてはマイナー寄りだと思いますが、モンゴルのオヴィラプトル類 Oviraptoridae としてはおそらく2番目くらいに解明度が高いものだと思います。1番目はキティパティ Citipati ですね(科博風に言うとシチパチ)。ヘユアンニアの属名の歴史に関しては紆余曲折あるんですが長くなるのでやめときます。

みんな大好きヴェロキラプトル Velociraptor
闘争化石のプロトケラトプスじゃない方として非常に有名です。いや、名前はジュラシック・パークの獰猛なアレとして知られていますね。

ヴェロキラプトル頭骨(ホロタイプ)
小さいですが、吻端が少し反っているのがチャーミングです。

ザナバザル Zanabazar
少なくとも当ブログで既に1回は登場している標本です。2009年にサウロルニトイデス Saurornithoides から独立したものの、サウロルニトイデスの模式種の模式標本が未成体であり現在も同属別種説があるそうです。

ピナコサウルス・グランゲリ Pinacosaurus grangeri 。ウォルター・グレンジャー先生に献名された鎧竜ですね。
アジアで初めて発見された鎧竜類 Abkylosauria でありアジアで最も多く見つかる鎧竜類でもあります。

またあんたか。

タルボサウルス Tarbosaurus

サウロロフス・アングスティロストリスSaurolophus angustirostoris の左下顎。
タラルルスもタルボサウルスもサウロロフスもアンドリュース隊が発見したわけではありませんが、間接的には関係があります。1920年代の彼らの調査によって、モンゴルが恐竜化石の世界的な産地であることが初めて示されました。
この成果は、その後のソ連によるモンゴルでの古生物学調査を促すことになりました。ソ連隊はアンドリュース隊の成果を踏まえて調査を拡大し、その過程でサウロロフスたちを含む多くの新しい恐竜が発見されました。
つまりモンゴルにおける恐竜研究の基盤を築いたのはアンドリュース隊であり、その後の発見はその延長線上に位置づけられます。サウロロフスたちの発見は、アンドリュースによって切り開かれた研究の潮流の中で実現したものと言えます。
この先、どんどんアンドリュースご自身は関係なくなっていきます。

プレノケファレ Prenocephale
めっちゃ頭良さそう(知的という意味ではなく)。
このマウントも手がいろいろ変なので見かけたら気持ちよくつっこんであげてください。

コンコラプトル Conchoraptor の幼体
トサカのない小型のオヴィラプトル類。発見当初はオヴィラプトルの幼体で、成長するとトサカが発達すると考えられていたらしい。その可能性は考えちゃうよね。
この標本は福井県立恐竜博物館所属らしい。福井県立恐竜博物館にはコンコラプトルのマウントの常設展示がありますが、この標本は普段収蔵されてるんですよね?

ガリミムス Gallimimus bratus
ガリミムスはデイノケイルス類 Deinocheiridae になって久しいですが、この特別展ではオルニトミムス類 Ornithomimidae になっていました。デイノケイルス Deinocheirus ほど大きくはないですがオルニトミモサウリア Ornithomimosauria では比較的大型で、オルニトミムス類とされていた時は最大のオルニトミムス類と言われていた程ですが、この個体は小さく明らかに子供だとわかります。
というかこれでガリミムスだと同定できるのがすごい。

バガケラトプス・ロジェストヴェンスキイ Bagaceratops rozhdestvenskyi
バガケラトプスは幼体から成体までの標本がそれなりに知られており、これは約4cmで最小のものらしいです。最も幼いケラトプス類でもこんなに眼窩が大きいことはないので異形感がありますが、バガケラトプスは成体でも眼窩はそれなりに大きいものですね。それでいて、こんなに小さくても角竜類の証たる吻骨がちゃんと存在しているのがかっこいいです。

アヴィミムス Avimimus
2006年のフィリップ・カリー先生率いるカナダ・アメリカ隊が発見した盗掘跡のボーンベッドからもたらされたという化石群由来の標本。
図録によると、このボーンベッドの発見でアヴィミムスの顔の形がはっきりし、何より彼らが群れで生活していた事が明らかになったそうです。

シノルニトイデス Sinornithoides の唯一の標本。
何度か見た事があったのですが、これ頭部を左前肢(この画像だと首を上にして裏返っているので右側の足)に挟み込んでいるんですね。

モノニクス Mononykus
この組み方、自分が若いころは大して出てない印象を受けましたが、今見るとかなり出ている方だとわかりますな。
そしてこの前肢の短さと指の短さに対してよく発達した力強い尺骨頭が不思議です。

ゴビヴェナトル Gobivenator
岡山理科大学恐竜博物館所蔵だそうですが初めて観る標本です。トロオドン類 Troodontidae で雑食説が示唆されていますが、この恐竜も狩人という名前に反するわけではないですが、植物も食べていたのでしょうか?

ネメグトマイア Nemegtmaia
オヴィラプトルが「卵泥棒」という冤罪由来の名前なのに対し、「ネメグトの良母」という訂正後の解釈に因んだ命名は良いと思いました。ちょっと哺乳類感ありますけどね。
マウントは、すみません、もうちょっと鳥っぽく立たせたらより綺麗だったかもしれませんね。シルエットが。
あと図録p.63〜p.65にネメグトマイア発見の冒険譚が語られているんですが、その中に「ネメグトマイアはメジャーな恐竜として今でも注目されています」と書いてあるんですが、ここで言うメジャーってたぶん人気とか知名度の話ではないですよね?

シノルニトミムス Sinornithomimus
わかりやすくボーンベッド由来の産状。複数個体が関節した状態で保存されています。小林快次先生(2022)によると生き埋めになってもがいた形跡があるとのこと。かわいそう。
さて、化石ハンター展前半のゴビ砂漠の恐竜たちの紹介はここまでです。いかがだったでしょうか。
木村先生のご著書『化石の復元、承ります』を拝読して初めて知ったのですが、この化石ハンター展は、『和食展』などこの時期の他の特別展と同様に、コロナ禍によって極めて深刻な影響を受けた展覧会だったのです。
本来この展覧会では、アンドリュース隊がゴビ砂漠で発見した実物標本群をアメリカ自然史博物館から借用し、それらを中核に据えた構成が予定されていたそうです。しかし、コロナ禍によってアメリカ自然史博物館の営業が停止、借用が不可能となり、展示が予定されていた標本はすべて来日できなくなってしまったそう。これは単に展示物が減ったというレベルではなく、展覧会そのものの開催が危ぶまれるに等しい事態だったのだと理解しました。
そのような状況の中で、木村先生は展示構成を一から全面的に組み直すという、想像を絶するご苦労を背負われたのです。本来予定されていた標本群を前提に設計されていたストーリーや展示構造をいったんすべて解体し、国内で確保できる標本だけを用いて、展覧会として成立する形に再構築されたというのは、本当に真似できるものではなかったと思います。
結果として、展示されていた恐竜骨格の多くは福井県立恐竜博物館および岡山理科大学が所蔵するレプリカによって構成されることになりました。ファンとしては、アンドリュース隊が実際に発見した“あの実物”を目にする機会が失われてしまったことを残念に思う気持ちも正直ありました。しかし、それ以上に、あれほどの困難な状況の中で展覧会そのものを成立させ、アンドリュース隊の偉業と化石発掘の歴史的意義を来場者に伝える場を実現してくださったことに、深い敬意を抱いています。
あの展示空間は、単に標本を並べるだけの場ではなく、失われた条件の中でもなお知識と情熱によって再構築された成果そのものだったのだと、今あらためて強く感じています。木村先生をはじめとする関係者のご尽力があったからこそ、我々はあの展覧会を通じて、アンドリュース隊の物語とその意義に触れることができたのだと思います。本当に心からの敬意と感謝の念を抱いております。
まとめた感じになってますが、この記事は後半を紹介するパート2もあります。
それじゃ👋
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参考文献:
- Kimura, Y. (2022) 『化石の復元、承ります』ブックマン社.
- 国立科学博物館 (編) (2023) 『化石ハンター展 図録』. NHKプロモーション.
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