
スキピオニクス Scipionyx の既知の唯一の標本。通称 Ciro(チーロ) またはAmbrogio(アンブロジオ)
イタリアで見つかった獣脚類 Theropoda の幼体で、骨格の大部分だけでなく、消化器系や気管系などの臓器、筋肉系、未消化物、糞などを保存した奇跡それ自体です。このような状態の恐竜化石は僕の知る限り他にありません。
展示会の当初ではレプリカが展示されていましたが、途中から実物に置き換わりました。
化石恐竜では現状この小さな身体からしか直接証拠が得られない情報がたくさんあるのでしょう。今後の研究も楽しみな標本です。

2頭のティランノサウルス Tyrannosaurus
手前が新しいマウントでタイソン Tyson という名前らしいです。素性は不明ですが。奥はお馴染みスコッティーで、これはゴビサポートジャパンのもとで設営をお手伝いさせていただきました。タイソンは個々のパーツが連結されておらず、カナダの業者3人と真部先生だけで深夜まで組み立てられていたのが印象的です。

頭骨を構成する骨の一つ一つも独立したパーツでフレームが通常より複雑な形になっていました。なお、この画像は掲載が憚られる物も写っていたのでいい感じに加工しました。

タイソンはいくつか病変が見られるそうですが、キャプションでは右上腕骨に他のティランノサウルスの噛み痕があるとされていました。

たぶんこれですよね。痛そうです。

第一会場の終わり近く。
手前から顔馴染みのカルノタウルス Carnotaurus, フクイラプトル Fukuiraptor, メガラプトル Megaraptor。
カルノタウルスもゴビサポートジャパンさんにまじって組み立ての邪魔をさせていただきました。血道弓の開始位置で議論したなあ。

カルノタウルスの新しく得られた知見に基づいて造られた右前肢。肘先がかなり短いくせに第1指が対向しているようです。何かを把握するというより退化の一環で二次的にそうなったとかでしょうか。それともいつかの祖先の段階で獲得された形質を受け継いだだけか。どうあれ奇妙です。

マウントの展示はないのにグッズやNHKの映像作品では目立っていたマイプ Maip の実骨もいくつか展示されていました。画像は烏口骨。なんだこのゴツさは。獣脚類じゃないのか?(獣脚類です)

現在のカワセミ Alcedo atthis の巣穴
現生鳥類はこうやってK-Pgイベントを凌いだのかもねという展示。

ドードー Raphus cucullatus
おお。群馬県立自然史博物館の常設から借りたドードーですね。詳しい人によるとドードーは「現生動物」にも関わらず骨格の情報が明確ではないそう。標本の重要性を我々が理解する前に滅ぼしたという事でしょう。
なので復元骨格は竜骨突起が大きいタイプとそれが小さいタイプがあります。これは見てわかる通り前者ですね。
“恐竜類は自然の成り行きで地球の環境が大きく変わった為に絶滅しました。これは、我々人類がいなかった時の出来事です。
でもこの恐竜はちがいます。彼らは、我々がモーリシャスに行き、つかまえたり、動物(外来種)を持ちこんだり、住処をこわしたりしたことで絶滅してしまいました。つまりドードーは我々が絶滅させてしまった恐竜です。
恐竜博の最後にドードーを見ることで、「絶滅は自然の成り行きだけではなく、人為的にも起こることなんだ」と改めて気づくことができます。そして、ヒトは生き物を絶滅しないように自戒できる生き物でもあるということを覚えるきっかけにもなります。”
…というメッセージだと思います。

AVAやシャーマン等をお貸しくださったROMの館長のメッセージ。「化石は地球の自叙伝」だそうです。最高ですね。
とまあ全4回で見てきたように、貴重で面白い標本が展示されていました。特にシャーマン(ズール)とチーロ(スキピオニクス)は恐竜に興味が無くても、それだけで行く価値があったと言う人が多いのではないでしょうか。一方で“恐竜たちの「攻守」を軸にそれぞれの進化を読み解いていく(船坂 & 江頭, 2023)。”というテーマが展示の狙いとして報じられていたのですが、もしそうなら狙いに対して展示構成は不十分だと感じました。「攻」が他の恐竜を狩猟する事のみを指すとしても具体的な狩猟方法を紹介されていた恐竜がどれほどあったでしょうか。また肉食恐竜の進化についてはほぼ読み解かれていなかったですよね。また「守」も装盾類 Thyreophora の防御と進化はよく紹介されていたかもしれませんが、皮骨で体を鎧うばかりが被食恐竜の防御ではないですよね。具体的には頭で応戦した可能性のあるトリケラトプス Triceratops などの角竜類 ceratopsia。それから大型竜脚類 sauropoda は体の大きさが防御手段だったわけです。プエルタサウルス Puertasaurus は展示されていましたが、「守」を軸に進化を読み取ってはなかったです。また、敏捷な植物食恐竜たちの逃げ足だって「守」ですよね。
最初にズールという展示物ありきで企画が起ち上がり、後から展示目的を添加して行ったというように見えます。それが問題と言いたい訳ではないですが、開催目的は達成する気がないものを掲げるくらいなら素直に『ズールを展示する』で良かったんじゃないかと感じたという事です。だって“恐竜たちの「攻守」を軸にそれぞれの進化を読み解く”と言われたら、読み解いてほしいと期待を込めて希うのが人情じゃないですか。「今度の主役はトゲトゲだ!」というキャッチコピーもスティラコサウルス Styracosaurus を連想するのに十二分です。ROM 繋がりでROM所蔵のスティラコサウルス標本が何体来るだろうと数えた自分がバカみたいじゃないですか。
などとクレームのように書いてしまいましたが、恐竜博2023は歴代の科博の特別展の数々と比べても満足度の高い特別展であり、海外に行かなくては、もしくは行ったとしても拝むことのできない標本の数々をタダ同然で拝見させて頂いたご恩は忘れません。開催から3年も経過してしまい今更ではありますが、携わられた方々にこの場を借りて御礼申し上げます。
それじゃ👋
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参考文献:
* 船坂優太 and 江頭史歩, 2023, 『守りガッチリ、トゲとこん棒 「恐竜博2023 THE DINOSAUR EXPO」』, 朝日新聞デジタル. Available at: https://www.asahi.com/sp/articles/DA3S15579464.html (Accessed: 12 February 2026).
