何事も終わりはしない。ケラトプスユウタです。
8月11日に特別展『大恐竜展』のために福島県立博物館へ侵入しました。1週間前にはいわき市石炭・化石館(ほるる)へ侵入したので、2週間連続で福島県へ侵入したことになります。
福島県立博物館があるのは、県庁所在地の福島市ではなく、県西部の会津若松市です。しかも単に鶴ヶ城の近くというだけでなく、かつて城郭の一部だった三の丸跡に建っており、鶴ヶ城観光とそのまま組み合わせられる絶好の立地にあります。

JR会津若松駅からは約3km離れていますが、まちなか周遊バスで約20分、「鶴ヶ城三の丸口」で降りればすぐです。


大恐竜展。それは、福島県立博物館の開館40周年と、福島県で最初の恐竜化石が発見されてから40年という二つの節目を記念して開催された特別展だそうです。
最大の目玉は、世界初公開のザヴァケファレ・リンポチェ Zavacephale rinpoche という新種の堅頭竜類 Pachycephalosauria が展示されたことです。なお、ザヴァケファレを記載した国際研究チームの一人が、ほかならぬ福島県立博物館の副主任学芸員・吉田純輝先生です。つまり今回は、話題の新種を外部から借りてきただけの恐竜展ではなく、その研究に当館の学芸員自身が携わり、研究成果を自らの博物館で初公開する展覧会でもあります。
それにしても堅頭竜類が展示会の目玉になるって前代未聞ですよね。うわすっげ!

パレオサイエンス所有のアパラチオサウルス Appalachiosaurus
長崎市恐竜博物館(ベネックス恐竜博物館)の『KINGS』ぶりの再会。
一応この場所はエントランスではあるのですが、博物館入口とアパラチオサウルスの間には特別展の売店が広げてあります。来館者は特別展のチケットを買わないとこの展示は観れないので客寄せパンダにもなっていません。なのでこの位置に展示されている事には脈略がないように思ったのですが、どうなのでしょう。

福島県、主に会津若松、いわき市、広野町、南相馬市の古生物学のざっくりとした流れがわかる年表。


ヒロノリュウと呼ばれる詳細不明のハドロサウルス形類 Hadrosauriformes の歯(左)と頸椎
1986年に広野町の足沢層で発見された、福島初の恐竜化石らしいです。
昔何かの児童書で日本各地で発見された恐竜を紹介するページに載っていたので名前は知っていましたが、モノは初めて観ました。


主竜類 Archosauria の現生グループ、ワニ類 Crocodylia と鳥類 Aves を代表してシャムワニ Crocodylus siamensis とマゼランペンギン Spheniscus magellanicus
ここは第1章『恐竜とは』の展示区画。
キャプションによると、“特徴や進化パータンを恣意的に選んでしまう危険性に加え、恐竜が長い歴史の中で姿・形を変えてきた生き物だから、現在では形質ではなく系統関係に基づく分類が採用されるようになった”と説明されており、要するに「形質に基づく定義は今は使われなくなった」と読むことができます。一般向けの媒体でここまで言い切るのは珍しいように思います。
また「恐竜とは何者かという本質については、恐竜全体がもつ共通性と変化の両方に、その答えがありそうです」とも書かれていました。これは恐竜類に限らずいろんな分類群に当てはまりそうですよね。

恐竜類の進化史を紹介する上で重宝、エオラプトル Eoraptor
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ジオラマ展示ジュラ紀の森。環境復元画の参考になりそう(描くとは言っていない)。
恐竜の生体復元模型はロシアの羽毛鳥盤類 Ornithischia クリンダドロメウス Kulindadromeus とのことです。
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以下、南相馬市の植物化石

キムリエラ・デンシフォリア Kimuriella densifolia のホロタイプ
植物化石は葉・幹・根・花・球果などが生きていたときの接続を保ったまま見つかることが少ないため、それぞれの器官が別々の植物として記載され、異なる学名を与えられることがあります。なので複数の器官がつながった標本の発見には、単に保存状態が良い以上の価値があります。それまで別々の学名で呼ばれていた化石を同じ植物の一部として結び直し、その植物が実際にどのような姿をしていたのかを復元できるからです。らの部品から植物全体を取り戻せる点ですね。
キムリエラ・デンシフォリアは2022年に新種記載されたベネチテス類。既知の化石植物ザミテス、ウェルトリチア、ウィリアムソニアはそれぞれ一種類の植物の葉、雄花、雌花であったことがわかったそう。
ザミテスなんて世界的にも広く分布していて、中生代植物全体でもかなり代表的な属だと思うので凄いことやぞ!
事実、所蔵元の南相馬市博物館ではこれを目玉展示として「新属・新種化石『キムリエラ・デンシフォリア』」という特別展を開催していたほど。


2種のニルソニオクラドゥス Nilssoniacladus
学名の意味は「ニルソニアの枝」で、要するに枝と葉がつながったニルソニアです。
これもホロタイプらしいです。

これもホロタイプらしいです。
余談ですが “taeniatus” はラテン語で「帯」を意味する単語に由来するそうで、よく帯状の模様のある現生動物の種小名に使われがちな言葉ですな。(タテスジクサガエル Hyperolius marmoratus taeniatus, ニセクロスジギンポ Aspidontus taeniatus など)



恐竜だけではなく「南相馬の植物化石」に一節を割いているのが誠実ですね。恐竜だけを孤立して並べるのではなく、同じ時代にどのような植物が生え、どのような環境が広がっていたのかまで示すことで、後期ジュラ紀の福島を一つの生態系として見せようという気概を感じました。
また、大学の研究者だけでなく、地元の相馬中村層群研究会による長年の採集や、常磐自動車道の建設工事で掘り出された化石が研究を前進させたことにも触れられていたのも印象的でした。
化石研究は専門家が発見するものとは限らず、地域の人々と研究者が協力し、受け渡してきた蓄積によって成立するというその過程まで見える、福島県立博物館らしさの光る展示だと思います。
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南相馬の足跡化石




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ジュラ紀の恐竜

左からお馴染みディプロドクス・カルネギィ Diplodocus carnegii , カマラサウルスとしては珍しいカマラサウルス・グランディス(!) Camarasaurus grandis, ステゴサウルス・ステノプス Stegosaurus stenops
ステゴサウルスだけ模式種ですね(今は)。
ちなみにキャプションでステゴサウルスが鳥脚類Ornithopoda になってました。ついでに言うとコラム的なキャプションの中でモノクロニウス Monoclonius が無効名とされていましたが、正確には疑問名なだけで有効名ではあるはず。あんま言うとあれか。

アロサウルス・フラギリス Allosaurus fragilis
ハンズオン展示でした。涙骨の溝の深さを指に焼き付けると良いでしょう。

ヤンチュアノサウルス Yangchuanosaurus
樹脂の柔らかさが見た目に表れていますが、さすが精悍な顔つきです。
あとSNS掲載禁止の展示で、モンゴル産後期ジュラ紀の竜脚類 Sauropoda の座骨、血道弓、尾椎と僕にはなんだかわからない断片がショーケース入りで展示されていました。これはブログであってSNSではないので…というトンチをきかすほど堕ちちゃいないので、ご覧になりたい方はお近くの福島県博へどうぞ🫲
特に癒合した2個の尾椎が美しかったです。
寡聞にしてモンゴル産後期ジュラ紀の竜脚類自体の存在を初めて知りました。そのうち新属記載されるかもしれませんね。

チレサウルス(キレサウルス) Chilesaurus
復元骨格。
チレサウルスは獣脚類だと思っていたのですが、Baron & Barrett の2017年の研究では鳥盤類の最基部に位置づけられているんですね。ただ、その後の研究でも系統的位置については議論が続いており、解析によって獣脚類になったり鳥盤類になったりと、現在でもかなり不安定なようです。
もし鳥盤類の最基盤級の位置付けなら、チトニアン期当時でもいわゆる生きた化石のような存在と言うことでしょうか?

チレサウルス産状骨格
この動物の存在は、基盤的獣脚類と基盤的鳥盤類の見分けがつきにくいという事実によって恐竜類のないしオルニトスケリダ Ornithoschelida の単系統性をさらに後押しするものですよね。まあ今更後押しする必要ないくらいの客観的事実ですが。

イグアノドン Iguanodon 頭骨、「イグアノドン」の歯、メガロサウルス Megalosaurus 下顎
明らかに恐竜発見黎明期を説明するための展示。

日本列島で最初に見つかった中生代恐竜化石、モシリュウの上腕骨。と言うかこの上腕骨=モシリュウという感じですね。以前岩手でも拝んだことがありますが、記憶より大きく見えました。
