DinoScience 恐竜科学博 ララミディア大陸の恐竜物語 (後編)

昨日の記事で自分のカメラ・レンズ事情のことを無駄に繰り返し言い過ぎた。ケラトプスユウタです。

ということでパシフィコ横浜で2021年9月12日まで開催の、恐竜くんこと田中真士さん企画・監修「DinoScience 恐竜科学博」のレポートの後編に突入していきたいと思います。

『ゾーン3:フィールドツアー』

恐竜科学博で最もマウントの数が多い展示室がここです。大半は日本初公開ですね。それ以外も関東初公開です。ここは家族とはぐれた少年トリケラトプスを主人公とした絵本の世界に入り込んだような感じの展示室です。少年トリケラトプスやその足跡をフォローするような形で進んで行きます。

壁に投影されたトリケラトプスの幼体。動きます。かわいいです。

このゾーンにはこのようなシルエットで復元された恐竜が4種類ほどいます。

(ボケた写真ですみませんが離れてご覧ください。)好奇心旺盛な少年トリケラトプスが小型翼竜を追いかけています。
「ゾーン2」のトリケラトプスのところに頭だけ展示されてたのを紹介しましたが、この子が複数の幼体トリケラトプスおよびカスモサウルスを参考に作られた骨格模型の全身です。レインの幼かった頃を想定しているそうです。
哺乳類ディデルフォドン・ヴォラクスDidelphodon vorax (左)とティラノサウルス幼体。

ディデルフォドンは現代の基準では小型哺乳類になるでしょうが、白亜紀当時の哺乳類としては大型のものでした。初期の有袋類です。

ティラノサウルスの幼体もこのような全身の骨はまだ見つかっていません。この子も少年レインと同じく科学的考察に基づいて作り出されたそうです。若いティラノサウルスと言われるジェーンの顔が細長いので、幼体の顔はもっと細長いのかと思っていたのですが、亜成体で前後に伸びてから上下方向に大きくなるという成長をするらしいです。腕も幼体の頃からかなり小さいんですね。

ワニ(スタンゲロチャンプサ)が飛び出してきて驚く少年トリケラトプス。

ここは沼なんです。右側にカメ(Plesiobaena)とチャンプソサウルス(Champsosaurus)も泳いでいます。

余談ですがこのワニは化石業者のトリーボルド・パレオントロジーのカタログの記載より小さいようです。

大型翼竜ケツァルコアトルス・ノルトロピ(Quetzalcoatlus northropi)。空を飛べない動物だった可能性はほぼないと僕は思います。

去年の「肉食恐竜展」ぶりの再会です。このサイズのケツァルコアトルスの全身骨格は見つかっていないのでプロポーションは明確ではないのですが、空を飛べない動物だった可能性はほぼないと僕は思います。「巨大である事」と「鳥類と違いすぎる事」が飛べなかったと感じさせるのかもしれませんが、空を飛べない動物だった可能性はほぼないと僕は思います(くどい)。

逃げるストルティオミムス(Struthiomimus sp.)とそれを追うダコタラプトル・ステイニ (Dakotaraptor Steini)。

ダコタラプトルのマウントはロッキーマウンテン・ダイナソー・リソース・センターでも見ましたが、このマウントは新標本の要素がアッセンブルされており世界初公開らしいです。

赤いライトアップはナイトミュージアム限定の演出です。

ここはララミディアに近接する海、ニオブララ海。これは海棲爬虫類モササウルスの新種(Mosasaurus sp.)。日本初公開。

真横からも観察することができます。

少年トリケラトプス、デンヴァーサウルス・シュレッスマニ(Denversaurus schlessmani)のタンク(TANK)、エドモントサウルス・アンネクテンス(Edmontosaurus annectens)のリトルジョン(Little John)。いずれも日本初公開。

緑のライトアップはナイトミュージアム限定の演出です。

タンクはデンヴァーサウルスとしては最も完全性が高いそうです。

有名なアンキロサウルス Ankylosaurus と共に最後にして最大級の鎧竜デンヴァーサウルス。タンクの愛称の通り、戦車のようにどっしりしていて見るからに頑丈そうなのでよく保存されそうなものですが、ララミディアにおいて鎧竜類は珍しいそうです。生息環境の問題なのか個体数が少なかったのか。

デンヴァーサウルス・シュレッスマニは、一部の研究者はエドモントニア Edmontonia と同一のものと考えているそうですが、現在は独立した属種として認められています。ちなみに僕は何が違うのかわかりません!

きれいな形をしている。

リトルジョンは若いエドモントサウルスです。命を落とさなければまだ大きくなれる個体だったでしょう。

未命名の鳥類と少年トリケラトプス。

少年トリケラトプスはここで家族と再会を果たしたそうです。めでたしめでたし。

未命名の鳥類。恐竜くんさん曰く、本展で最ももっとも出来が良い骨格とのこと。指の長い脚が目を引きますが、この部分は見つかっていません。しかしクイナに似ており、湿地や沼沢で暮らしていたと思われることから妥当な復元のように思います。現生のクイナ類は飛翔能力を失っているものが多いですが、この鳥は飛べたと考えられているそうです。

この後、「ゾーン4:白亜紀体験シアター」という3分間ほどの映像展示があります。巨大なスクリーンと振動する地面、風などでララミディアの世界に没入できるように設計されたもので、恐竜の生体復元、動き、演出まで相当手がこんでいるもので、かなり高い技術が使われている感じがします。CGで蘇った恐竜たちはあらゆるジャンルを含めても世界最高レベルのクオリティーであるように見受けられます(僕は評価できたタマではないですが)。このシアターではケツァルコアトルスの群れと共に空を飛んだり、目の前でトリケラトプスとティラノサウルスの対決を眺めたりした気分になれます。スクリーン中央の前から2番目の列が最も臨場感があるようです。例によって撮影・録音等は禁止です。

シアターを出ると「ゾーン5:特別展示 レインとスタン」が待ち受けます。ここが展示室としては最後のゾーンとなります。

トリケラトプス・ホリドゥス(T. horridus)のレイン(Lane)とティラノサウルス・レックス(T. rex)のスタン。突き進むレインにスタンが威嚇しているように見えます。(なおそれぞれ産地はランス層とヘルクリーク層なので実際に両者が遭遇することはなかったでしょう)。
ダイナミックなパーフェクト・スタン!
今、奇跡が起こっている。

ご存知の方も多いと思いますが、レインは普段アメリカ、テキサスのヒューストン自然科学博物館(Houston Museum of Natural Science)に所蔵されており、プレパレーションが終わってからは、21年間、今まで一度もアメリカは愚かその博物館から出たことがなかったトリケラトプスです。去年(2020)、恐竜くんさんから「来年(2021)は実質トリケラトプス展になる」と聞かされた時、“レインの形をした物”が来る事までは理解できたのですが、まさか本当に実物が来てくださるとは夢にしか思わなかったです。そう、言いそびれましたがこちらは実物を組んだマウントです。恐竜の実骨に恵まれない日本ではレプリカ展示が当たり前なので余計に驚くべき事のように感じますが、実骨豊富なアメリカでは「レプリカを組む」というのは「その施設に実骨がない」ことを意味するが如く、むしろ「実骨があるのになぜ敢えてレプリカを組む?」くらいの感覚なのだろうと思います。まあ標本が破損しなければなんでも良いのですが。実際、レインを持ってくるという話は数年前から動き出していたそうですが、当初恐竜くんさんもまさか実現するとは思っていなかったと言います。偉い人か誰かに「実現できるかどうかは度外視して、なんでもいいから好きな標本を借りれるなら何がいい?」ときかれ、本当に実現できるかどうかなど考えずに「レインかボレアロペルタ(Borealopelta)」と答えられたそうです。どちらも皮膚印象ではなく正真正銘の皮膚化石が残されているなど、奇跡としか言いようがない恐竜です。現在まで保存されていたこと自体が天文学的に少ない確立だったであろう存在が、今日本の横浜に来ているわけです。

恐竜くんさんから伺いましたが、レインをヒューストンから拝借する際の条件の一つに、ブラックヒルズ地質学研究所(Black Hills Institute of Geological Research)の「ピーター・ラーソン氏の監督下で組み上げる」というものがあったそうです。ところがピーターさんはコロナの影響で設営時の来日が叶わないという事になりました。それは借りる側の契約違反になるところだったのですが、ヒューストン自然科学博物館のジョエル・バーチ館長が「何かあったら責任は私が取る!」と言って下さったおかげでレインの来日が実現したらしいです。まさに理想の上司。

この逸話以外にも様々な苦労やトラブルがあったのではないかと想像します。

こちらが話題のレインの皮膚化石。皮膚のブロックが複数見つかっっているのですが、これは腰あたりのものです。

ちなみにレインの近くから有名なチャールズ・スタンバーグ(Charles Sternberg)のエドモントサウルスのミイラ化石も発見されているので、環境的な条件が皮膚の保存に適していたのではないかと思います。

寄りの画像。

ケラトプス類(Ceratopsid)のウロコは恐竜としては例外的な大きさで、全体的に大きめの多角形鱗が敷き詰められているのがわかります。この写真ですと一つだけ写っていますが、部分的に乳首状の突起のあるウロコがあります。これには生体ではトゲ状の突起が伸びていたものと思われますが、その長さなどはよくわからないです。羽毛のようなものとして描かれる事もありますが、少なくとも鳥類の羽毛と相同のものではないと僕は考えています。DinoScience 恐竜科学博では比較的長めのトゲとして復元されています。

既知のトリケラトプスの中で皮膚が残されているものはごく僅かです。レインほど表皮の大部分が知られているトリケラトプスは他に存在しないので、今日トリケラトプスの生体復元をマジメにする際に、レインを参考にしないわけにはいかないという事です。また表皮の直接証拠が一切ない他のケラトプス類においても、このレインを参考にするのは妥当だと思います。

ナイトミュージアムだと紫色やオレンジ色に照らされる時があります。

この特別展でよく知られるようになった通り、皮膚の保存、完全性、変形の少なさで他の追随を許さないレイン。発見時、頭骨はバラけていたそうですが、バラけていた事で変形を免れたのでしょう。

日本国内で普通に見られるトリケラトプスの頭骨は、ケルシーや LACM 59049 など左右に潰れているか、AMNH 5116や FPDM V 9677のようにトリケラトプスとして典型的でない(トリケラトプスではない可能性がある)ものばかりなので、補完されているとは言え、トリケラトプスとしてあるべき姿をした頭骨を日本で拝めるだけでも皆さん感謝してください(頭頂骨はまったく見つかっていないので注意)。

己が厳しく剛健に生きる為にあるトリケラトプスの姿形は、やはり憧れますね。

通常姿勢というよりは一瞬首を高く持ち上げたモーメントを切り取ったような姿です。顎を下から支柱で支える都合上そのような姿勢になったのかもしれません。肩帯の位置が低く、肩の高さが高くなっているのもそういう事かもしれません。首が長く見えるのは、マウントの設計上、環椎(第1頸椎)と後頭顆が繋がっていない為でしょう。

トリケラトプスの肋骨はかなり密に隣接しています。椎骨が前後に短いのでどうしてもこうなるのでしょう。後方の肋骨が一部前方を向いていますね。これには化石化による変形の結果という否定的な意見もありますが、知り得る限りどのトリケラトプスでもそうなっているのでそうなっていたのでしょう。

トリケラトプスはケラトプス類の中でも腰幅がかなり広いです。全長だけで比較するとボリューム感を見誤るでしょう。トリケラトプスは全長が長いだけでなく、プロポーションの上でも相当ボリューミーなっているタイプのケラトプス類なのです。腰の下まで内臓が収まっていた事がレインで確認できます。

この速く走る気がさらさらない中足骨の短さもかっこいいですよね。逃げるより戦う事を選ぶ、またはほぼ狙われる事がなかった、どっちかでしょう。

ちなみに足先の骨も出ているのですが、リスクマネジメント上の理由で四つの足(手首、足首より先)はレプリカになっているそうです。

プレパレーションの完了から19年が経ってるレインですが、記載論文がまだ出ていませんね。情報量が多いため書く事も多く時間がかかっているのでしょうか。レインの存在がトリケラトプスの知見に大きく寄与している事は既に事実ですが、論文がないと寂しいですね。

論文のことはさておき、僕は去年このレインの為だけにヒューストンに自ら赴こうと計画していたところでしたが、コロナのために断念したのですよ。それがレインの方からこっちに来てくれるとは、このDinoScience 恐竜科学博は僕のために開催された特別展なのです!と僕は勝手に思ってます。発掘と剖出を行われたBHIの皆様、貸し出しの許可を下さったヒューストン自然科学博物館様、パシフィコ横浜様、SONY様、インターキッズのお二方、レインをはじめ全てのトリケラトプスおよび全ての角竜、その他関係者全員にこの場を借りて感謝申し上げます。

と言ったところで DinoScience 恐竜科学博のレポートを締めくくりたいと思います。今後このクオリティーの恐竜展が日本で開催される事があるのでしょうかと疑問に思うほどの凄まじい展示内容でしたが、良くも悪くも恐竜を並べておけば満足してしまう消費者の需要に対して、これだけ高品質のものを提供し続ける企画者の労力が果たして見合うのかという事を考えると、ただただそのノブレス・オブリージュに期待するしかありませんね。ですが、今後もあると恐竜オタクとして嬉しいです。

あ、今月12日までの開催なので、まだ行かれていない方、もう一度行きたい方はお急ぎください。くれぐれも感染症にお気をつけて。

トリケラトプスに栄光あれ。

***

参考文献:

・恐竜くん(田中真士)(2021)、SONY presents DinoScience 恐竜科学博 〜ララミディア大陸の恐竜物語〜 カタログ

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