トレイ Trey (ワイオミング・ダイナソー・センターのトリケラトプス)が競売にかけられるのは反対ですが、背景を知らないので反射的に反対すべきではないですよね。せめて最終的には研究機関に収まる事を願うものです。ケラトプスユウタです。
さて!今回は巨大恐竜展 Giant Dinosaurs 2024のレポート3回目です。よろしくお願いします。
会場でのチャプター区分で言うと、前回の記事で『獣脚類の巨大化』として紹介した部分と今回紹介する部分を合わせて『恐竜の巨大化』という1つのチャプターとなっていました。つまり当ブログでは編集の都合で分けているだけで、実際の会場では『獣脚類』と『角竜類』で章が分けられていたわけではないです。悪しからずご了承ください。

プシッタコサウルス・ルジアトゥネンシス Psittacosaurus lujiatunensis
十中八九、基盤的角竜類 Ceratopsia は体が小さかった事を紹介する意図で選出された展示物でしょう。
キャプションでは P. mongoliensis となっていましたが間違ってます。同属でも年代的にも地理的にも形質的にも差があるんですー。
それはそれとして、プシッタコサウルスはよく「原始的な角竜」と表現されます。でも僕は決してそうは思いません。
確かにプシッタコサウルスは、角竜類の中でも基盤的なところに位置付けられていますし、角もフリルもないですし、クチバシ(吻骨 rostral) もケラトプス類 Ceratopsidae のものとは趣が違います。でも僕が引っかかるのは「原始的」というワードの意味なんです。
僕は分岐分類の専門家ではないですが、「原始的」というのは、より新しい時代に生息しているものが、共通祖先から受け継がれた形質を長期間変化させず残している事を指すと学校で習いました。
それだけでなく「プシッタコサウルスは原始的な角竜」と言う際、間違いなくトリケラトプス Triceratops のような白亜紀後期の大型角竜類が角竜類の進化の完成形で終着点で最終目的地であるかのような必ずしも正しくない前提が働いてますよね?
それはまるで、鳥類 Aves が獣脚類 Theropoda の、ヒト Homo sapiens が生物の、弁護士が法学部の学生の目指すべき進化の究極到達点だと考えるような誤解です。
第一、プシッタコサウルスの「4本指」という手! これはプシッタコサウルスが形質的には最も派生的な角竜類であり、ひいては彼らが「新角竜類の祖先という事が、かなりの確率であり得ない事」を意味します。
そもそもプシッタコサウルスは、新角竜類 Neoceratopsia と比べて古い時代に生息していた動物なので絶対的に原始的な形質を“長期間残している”わけではないですし、もっと言うとむしろ「めちゃくちゃ完成されてるやんけ」と思います。
体型はコンパクトで重心低く、跳躍力もありそうな敏捷性を感じさせる後肢。クチバシと歯列はすでに効率的な植物食特化型、胃石の直接証拠まで出ているのは他の角竜類では僕の知る限り前例がない事です。
過酷であったはずの白亜紀前期のアジアで生き延びるために十分な戦略を確立させていたんです。ロシアからタイまでの陸地という陸地を1200万年近くにも及ぶ長期間に渡って支配君臨していた事はみんな大好きな“化石証拠”が物語っています。
角もフリルもつけずに済むならつけない。エネルギーを使わずに済むなら使わない。必要最低限の武装と、十分な繁殖力。プシッタコサウルスとしてはそれで完成していたんです。
だから僕は、プシッタコサウルスを「原始的な角竜」ではなく、「独自の戦略を確立させた初期の進化的な角竜」だと考えたいんです。後の角竜たちが「ド派手路線」で熱く激しく大暴走していったのに対して、プシッタコサウルスだけが「これ以上は何もいらない」という禅の境地に達していた….というのは冗談ですが、分布、種数、繁栄期間を知り、骨を見るたびにプシッタコサウルスは、実は最強の角竜だったのではないかと思ってしまうんです。どうですか?「プシッタコサウルスがゴミ箱分類群だからだろ」と思うなら言ったって良いですよ。ぜひご意見をお聞かせください。今後の参考に致します。

基盤的新角竜類 モサイケラトプス(モザイケラトプス)・アズマイ Mosaiceratops azumai のホロタイプにして唯一の標本 ZMNH M8856 頭骨と産状化石

あまり注目されるタイプの展示ではないですが、お目にかかる機会が少ないという意味で希少価値の高い展示なのかなと思いますし、新角竜類の初期進化を学ぶ上で重要な標本です。
モサイケラトプスは“モザイク状の角の顔”という意味ですが、顔がモザイク処理されて見えないわけではありません。

歯列が笑っているみたいなので直感的にはレプトケラトプス類 Leptoceratopsidae っぽさを僕は感じるのですが、アクイロプス Aquilops やリアオケラトプス(リャオケラトプス) Liaoceratops に似ていると評される事が多いです。プシッタコサウルスと似た部分もいくつかあるとされ、複数の基盤的角竜類の特徴をモザイク的に併せ持つ事からこの属名が与えられています。

このモサイケラトプスの展示自体は、新角竜類の進化が段階的に進んだ事を示唆する役割があります。
記載者、鄭文傑先生らはプシッタコサウルスとモサイケラトプスが姉妹群である可能性も認めつつも、本属は2015年の記載時当初、新角竜類の最も基盤的なポジションに位置付けられました。
ちなみにホンシャノサウルス・ホウイ Hongshanosaurus houi がプシッタコサウルス・ホウイになった際、プシッタコサウルス科 Psittacosauridae のメンバーがプシッタコサウルス属しかいなくなり存在意義がなくなったので、プシッタコサウルス科は廃止されているわけなんですが、もしモサイケラトプスがプシッタコサウルスの姉妹群だとするとそれらをまとめるためにプシッタコサウルス科が(分類群として)復活する事になるはずです。
モサイケラトプスは2018年の韓鳳禄先生らの研究では、より派生的な新角竜類に位置づけられています。
最近の系統解析(例えば2020年代のヤマケラトプス Yamaceratopsの再検討とか、Madzia et al. 2021の命名法レビュー、2024年のロキケラトプス Lokiceratops 記載論文の補足図)でも、モサイケラトプスはしばしば基盤近くに残るものの、位置が揺れていて、アシアケラトプス(アジアケラトプス) Asiaceratops や コレアケラトプス(コリアケラトプス) Koreaceratopsと一緒にポリトミー(未解決の多分岐)になったり、もっと派生側に寄ったりしています。
本種は基盤的角竜類全体の化石がアジア中心で断片的かつ点数的にも不足していて研究が発展途上であるため、系統樹上の広すぎる空白地帯に投げ込まれた存在というだけで、実際にはまだ見ぬ多くの基盤的角竜類がここでいう“モザイク状”の形質をもっていたはずです。
大げさに例えるなら霊長類がキツネザルとメガネザルしか知られていない1億年後の古生物学の世界で見つかったニホンザルの化石がキツネザルとメガネザルの特徴を併せ持ったモザイクモンキーと言われてる感じです。
くどいですが、モサイケラトプスが持つ「プシッタコサウルスっぽいけど新角竜類らしい」モザイク形質は、単にこの1属だけの特殊性じゃなく、当時の基盤的角竜類の多様性がまだ我々に見えていないだけなんです。それが切なくもあり、ワクワクするところでもあります。
つまり、形質うんぬんを抜きにしてもその正体はモザイク処理が施された状態にある角竜類としてミステリアスな魅力をもっているのです。
言わば「まだ見ぬ(モザイクをかける影すら見えない)仲間たちの代弁者」です。基盤的角竜類の化石がもっと出てくれば、モサイケラトプスは「具体的にどこに収まるかはわからないけどとりあえず基盤的な角竜類」から「そこまで個性的というわけではない一つのバリエーション」に落ち着くかもしれません。

産状化石に含まれている卵化石は、2016年の福井県立恐竜博物館のシンポジウムが開催された時点ではモサイケラトプスのものではないかと期待されていたのですが、卵殻の結晶構造からカメ類の卵であると結論づけられたそうです。
角竜類の卵は現状プロトケラトプス Protoceratops のもの(外部リンク)しか知られておらず(オヴィラプトル類 Oviraptoridae のものと発覚している細長いものとはまた別です)、以前から指摘されていた通り主竜類の基盤的な卵のように柔らかい卵殻で、化石として残りづらい材質だったようです。
それにしても、いやカメの卵ならカメの卵で良いのですが、角竜類の卵殻の結晶構造はなまじ知られていないので比較できないだけに、それがカメのものと似ていた可能性も否定できないんじゃないかと個人には疑問に思います。
ポパーの言葉を借りれば、「常に反証可能性があるのが科学」とも言いますし、なんやかんや今後も要注目の化石ではあると思いますよ。ククククク。

最大級の角竜 トロサウルス・ラトゥス Torosaurus latus 半分生体復元模型・半分筋肉と骨格の復元模型。
キャプションではトリケラトプス Triceratops ですが、これは確実にホーナーとスキャネラ先生が唱えていた“トロケラトプス仮説”を受けての事です。図録にもこの模型の監修者の名としてナントカスタイン文書のようにホーナーの名が明記されてますからね。
図録には“同博士の恐竜に対する見解が反映された貴重な模型” と、波風が立たない表現で記述されていますが、“あまり支持されていない”というニュアンスを感じる気もします。
2015年に『メガ恐竜展』の為に造られた作品なので、この模型は“トロサウルスの形なんだけど、タイトルとしては『トリケラトプス』”という理解で良いと僕は勝手に思ってます。
2017年の『ギガ恐竜展』でも展示されていたようです。
トロサウルスとトリケラトプスのわかりやすい違いである頭頂骨窓 Parietal fenestra だけでなく、両者を分ける重要な形質である鱗状骨バー Squamosal bar もご丁寧にしっかりがっこり作り込まれていて仕事が丁寧です。

トロサウルスとして見ればかっこいい復元になっていると感じます。
近くには幼体の生態復元模型(動刻)もあります。

幼体はお腹が動くことで呼吸の演出があります。
頭は UCMP 154452 の復元頭骨っぽいです。

大型ケラトプス類の重量感を感じるには良い体験です。滅多にないですからね。こういう大きさの作品。

頭はどうみてもMOR 1122というロッキー博物館のトロサウルスをモデルにしています。首から後ろ Postcranial はドイル(AMNHのコンポジット)よりだいぶ大きく見えますが、特定のモデルはあるんでしょうかね?(なさそう)
部分的に筋肉が復元されていますが、頭がおかしくなりそうです。
とにかくブタのようなマクローリン復元じゃなくて良かったです。

これがアメリカのケツか。
とにかく Zigong Haichuan Dinosaur Landscape Science & Technology やM-star Dinosaurs Technology や Zigong Xinglong Technology の製品じゃなくて良かったです。

鳥脚類 Ornithopoda テティスハドロス(テチスハドロス)・インスラリス Tethyshadros insularis
巨大化ばかりでなくしっかり島嶼生矮小化も紹介する。いかにも誠実です。
そして見事に間接した全身骨格はやはりどんな動物の化石でも美しいものです。
さて!
本展全体の感想は最終回に取っておこうと思っているのですが、角竜類の展示順について一つだけ言わせてください。
まず、展示の順路に従うと、観覧者はモサイケラトプス → トロサウルス → プシッタコサウルスという順序で見ることになります。しかしこの並びは、地質時代の時系列とも、現在理解されている系統関係とも一致していません。とくに巨大なトロサウルス模型の両脇に、だいぶ小型で基盤的な角竜類であるプシッタコサウルスとモサイケラトプスが配置されているため、進化的な流れが感覚的に読み取りにくい構成になっていました。
さらに、プシッタコサウルスの位置はトロサウルスの陰に近く、順路通りに歩くと一度通り過ぎてから振り返らないと目に入りにくい場所にありました。そのため、角竜類の展示として最初に注目されるべき基盤的な形態が、やや見落とされやすい配置だったかなと感じました。
もっとも、図録を見ると掲載順はプシッタコサウルス → モサイケラトプス → トロサウルスとなっており、展示の意図としては角竜類の進化をたどる構成を想定していたことがうかがえます。おそらく、視覚的なインパクトの大きいトロサウルスを中央に配置して会場の見どころにしたかったのだと思われますし、その判断自体は展示デザインとしてザ・ベストだったのだろうと思います。ただ、その結果として進化のストーリーがやや読み取りにくくなってしまった点は、少し惜しく感じました。
また、展示内容の構成にも偏りがあります。今回の角竜類は3体中2体がかなり基盤的な角竜類で、残り1体が最も派生的な角竜類という、極端な組み合わせでした。もちろん、この構成によって角竜類の多様性を最小限の標本で示そうとした意図は理解できますが、欲を言えばプロトケラトプスやレプトケラトプス類 Leptoceratopsidae のような中間的なグループが一体でも入っていれば、進化の連続性がより分かりやすくなったのではないかと思います。
さらに、展示全体を見渡すと、角竜類の扱いはやや控えめでした。獣脚類 Theropoda はヘレラサウルス Herrerasaurus を含めるとして、7体が展示されており系統的な幅も広かったのに対し、角竜類は3体のみで、どうしても手薄な印象を受けます。角竜類も人気の高いグループであるだけに、もう少しバリエーションがあれば、来場者にとっても理解が深まったのではないでしょうか。
まあそれを言うと展示すらされていないグループはどうなるんだという話になりますが。
もちろん、限られたスペースや展示構成の制約の中での工夫があったことは想像できますし、巨大なトロサウルス模型自体は非常に迫力があり印象的でした。ただ、角竜類という興味深いグループを紹介する機会として考えると、展示順や系統的なつながりがもう少し見える構成であれば、更に教育的にも魅力的な展示になったのではないかと感じましたすみませんごめんなさい。
すごく良かったなと思った点もあります。それはモサイケラトプスがちゃんと取り上げられていたことです。
この角竜は一般的な恐竜展ではなかなか見かけない、かなりマイナーな存在ですよね。角竜類の初期進化を語る上でとても大事な位置にいるのに、日本では福井県立恐竜博物館以外はおそらく所有していない上、知名度が低いので、展示から外されがちだなと感じていました。
そんな中で、この展示がモサイケラトプスをきちんと含めてくれたのは、本当にありがたいなと思います。
プシッタコサウルスも、「角竜は最初から巨大な角とフリルを持っていたわけじゃない」というということは伝わりやすかったはずです。
派手なトロサウルスだけじゃなく、そのずっと前から続く長い歴史をさりげなく感じさせてくれる存在として基盤的角竜類を2体も置いてくれたのは、この展示の素敵なところの一つだったんじゃないでしょうか。
限られた3体という数の中でも、角竜類の幅広さや深みをちゃんと印象づけられたのは、素直に素晴らしいなと思いました。
続きはまた次回。
それじゃ👋
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参考文献
- 巨大恐竜展 Giant Dinosaurs 2024 (2024) 巨大恐竜展 Giant Dinosaurs 2024 図録. 東京: 読売新聞社.
- Han, F., Forster, C. A., Xu, X., & Clark, J. M. (2018). Postcranial anatomy of Yinlong downsi (Dinosauria: Ceratopsia) from the Upper Jurassic Shishugou Formation of China and the phylogeny of basal ornithischians. Journal of Systematic Palaeontology, 16(14), 1159–1187. https://doi.org/10.1080/14772019.2017.1369185
- Loewen, M. A., Sertich, J. J., & Burns, M. E. (2024). Lokiceratops rangiformis gen. et sp. nov. (Ceratopsidae: Centrosaurinae) from the Campanian Judith River Formation of Montana reveals rapid regional radiations and extreme endemism within centrosaurine dinosaurs. PeerJ, 12, e17224. https://doi.org/10.7717/peerj.17224
- Madzia, D., Arbour, V. M., Boyd, C. A., Farke, A. A., Cruzado-Caballero, P., & Evans, D. C. (2021). The phylogenetic nomenclature of ornithischian dinosaurs. PeerJ, 9, e12362. https://doi.org/10.7717/peerj.12362
- Son, M., Lee, Y.-N., & Kobayashi, Y. (2022). A new juvenile Yamaceratops (Dinosauria, Ceratopsia) from the Javkhlant Formation (Upper Cretaceous) of Mongolia. PeerJ, 10, e13176. https://doi.org/10.7717/peerj.13176
- Zheng, W., Jin, X., & Xu, X. (2015). A psittacosaurid-like basal neoceratopsian from the Upper Cretaceous of central China and its implications for basal ceratopsian evolution. Scientific Reports, 5, 14102. https://doi.org/10.1038/srep14102
- Scannella, J. B., & Horner, J. R. (2010). Torosaurus Marsh, 1891, is Triceratops Marsh, 1889 (Ceratopsidae: Chasmosaurinae): Synonymy through ontogeny. Journal of Vertebrate Paleontology, 30(4), 1157–1168. https://doi.org/10.1080/02724634.2010.483632
