やっぱり自然史系博物館って楽しいね。ケラトプスユウタです。
今回は福井県立恐竜博物館で10月14日まで開催予定の特別展「恐竜の能力 恐竜の生態を脳科学で解き明かす」の展示に軽く触れます。
開催概要はこちら👇
https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/special/brain/
タルボサウルス・バタール Tarbosaurus bataar
タイトルの通り恐竜の脳にフィーチャーした特別展ではありますが、脳エンドキャスト(頭骨の脳が収まっていた空間(脳函)の型)のみの展示なわけがなく、このように脳の研究がなされた恐竜の標本も展示されているので神経より骨派のあなたも楽しめます。
イグアノドン Iguanodon の脳函(左)と脳エンドキャスト。
ちなみに哺乳類と鳥類は基本的に脳が脳函いっぱいに詰まっていて、脳エンドキャストの形=脳の形なのですが、(鳥以外の)爬虫類は基本的に脳函と脳の間に隙間があるので脳エンドキャストの形=脳の形になりません。恐竜に関しては種類によってその辺りが違ったと思われます。
現生の爬虫類の体重に対する脳の重さの平均値を基準値(1)とした時の数値をREQ(爬虫類脳化指数)と言うそうですが、展示されていた恐竜たちはこのREQで知能を推定されていました。
イグアノドンのエンドキャスト説はその説明のために紹介しました。他にも個々の属種のエンドキャストが展示されていましたが、以降この記事では一つ一つ載せることはしません(開期中という理由もあり)。
「エンドキャストが見てえよお」という方はぜひご自身の目でお確かめ頂くか、ネット上で探してください。
エドモントニア Edmontonia の頭骨
実物
なんかよく見るキャストより顔が短くて顎が厚く見えます。
タラルルス Talarurus
タラルルスはこのタイプの組立骨格しか見たことないのですが、たぶん過剰に胴長短足に見えているはず。頭もこんなに小さくていいのだろうか(他のアンキロサウルス類 Ankylosaurid と違いすぎるような🤔)
ステゴケラス Stegoceras
カナダでは標本を見る機会が多かった堅頭竜類 Pachycephalosauria 。
パキケファロサウルス Pachycephalosaurus ほどの知名度はないですが、よく知られた堅頭竜類です。
いわゆる石頭恐竜で賢いイメージはなかったですが、キャプションによると最も知能の高い部類だったのではないかとのこと。ちなみに賢いイメージのあるステノニコサウルス Stenonychosaurus より高いREQを弾き出しています。ステゴケラスが6.28、ステノニコサウルスが6.06。
もうステゴケラスに「頭使えよ」と言われたらどっちの意味かわからなくなりましたね。
これがステノニコサウルス
標本と客の間に映像を映し出すためのガラスがあって、撮影の上ではかなり邪魔。斬新だけどない方が良いです。
それはともかく、ステノニコサウルスのようなトロオドン類 Troodontid が虫で魚をおびき寄せたり、薄い氷の上に天敵を誘導して嵌めたりするなんていうのは完全に妄想でしかないので学校で友達にまことしやかに流布しないように👌
ヘスペロサウルス Hesperosaurus
ホロタイプのレプリカ
ヘスペロサウルスは、脳が小さい恐竜として有名なステゴサウルス Stegosaurus と近縁な分類群ですが、やはりステゴサウルスと同じく小さな脳を持っていたようです。それでも見積もられたREQは1.36とそこまで低い値ではないです。
カマラサウルス・レントゥス Camarasaurus rentus 幼体
体重が重く頭部が小さい竜脚類 Sauropod は当然REQ値が低くなる道理で0.86とのこと。成体になるとこの値はさらに小さくなるでしょう。
ディプロドクス Diplodocus
REQは0.36と爬虫類の中でもダントツで低い値のようです。
アパトサウルス Apatosaurus 幼体
元の標本は頭骨が未発見で、この頭は成体のアパトサウルスを参考に造られたアーティファクトらしいです。これは主にディプロドクスの姿形を見せるための展示だと思いますが、珍しいので載せました。
属不明のランベオサウルス亜科 Lambeosaurinae
「プロケネオサウルス」 “Procheneosaurus” あるいは「テトラゴノサウルス」 “Tetragonosaurus” などという名前で呼ばれもしましたが、ランベオサウルス Lambeosaurus かコリトサウルス Corythosaurus とのこと。個人的にはヒパクロサウルス Hypacrosaurus の可能性もあると思います。
幅広い音域の音を拾うことができる聴覚の持ち主だったそうですが、鳴き声でコミュニケーションを取るという以前から言われていた説に沿う結果で面白くはないですね。
トリケラトプス・ホリドゥス Triceratops horridus TMC 2001.93.1
ケルシー Kelsey
二日連続でケルシー。
狙ったわけじゃないですが、まあ福井県立恐竜博物館の特別展でトリケラトプスといえば大概ケルシーです。
坂上莉奈さんの研究によると、トリケラトプスのREQは2.14で現生爬虫類の平均の2倍強ということですが、大脳がとても小さく本能的な行動を取ることが多かったそうです。イメージ通りです。蝸牛管も短く、低周波音を聴くのに適していたとのこと。遠くの音は低周波音として響くので、そこから何を類推できるかという話になりますね。個人的には社会性の低さに関連するように思えます。
獣脚類やワニと比較すると嗅球が小さく、あまり嗅覚に頼っていなかったとの説明も。
また自然な頭の姿勢はクチバシが斜め下を向き、フリルを立てるようなかっこうだそうで、事実なら植物や水を摂ったり敵に角やフリルを誇示したりするのに合理的なように思います。
プロジェクションマッピングによる展示解説。これは蝸牛管について。
トロサウルス・ラトゥス Torosaurus latus AMSP 15192
脳については福井県立大学で研究中だそうで、トロサウルスとトリケラトプスの差について何かわかる事やトロサウルスの能力に期待したいです。
パキリノサウルス第3の種、アラスカの角竜
パキリノサウルス・ペロトルム Pachyrhinosaurus perotorum
DMNH 21460
ホロタイプのレプリカ
NHKスペシャルの恐竜超世界に出ていたパキリノサウルスは地理的に本種ということになるでしょう。
日本初公開。正味この標本が来てなかったら僕も来なかったかもしれません。
ペロトルムはカナデンシス P. canadensis、ラクスタイ P. lakustai と比べてボス(鼻の瘤)が厚く、クチバシの骨が短くカーブが弱いという特徴があるようです。
展示されているエンドキャストはカナデンシスのもので、REQは0.50と同じケラトプス類であるトリケラトプスの4分の1以下なんですが信用して良いんですかね?!
パキリノは参考にされた標本のエンドキャストに脳の特徴がない、つまり脳函と脳が接していなかったという事なので、どうやって脳の形や重量を見積もったんだろうと疑問に思います。
ちなみにパキリノのREQ値の計算はローレンス・ウィットマー博士らによるものです。
シリンドホルナ Sirindhorna
タイのイグアノドン類 Iguanodontid
こちらも前々回の記事で紹介したばかりのネオヴェナトル Neovenator
まったく同じ標本です。
2年連続で福井の夏の特別展に出て、さらにそのインターバルに少なくとも新潟県立自然科学館の特別展にも貸し出されたわけですな。
そういえば今回はキアンゾウサウルス Qianzhousaurus の全身復元骨格が目玉として予告されていましたが頓挫した模様。
アロサウルス Allosaurus
ツイッターのフォロワーのアロサウルス狂いのホリヒトさん(堀田直人さん)の研究が紹介されてました。スピノサウルス類 Spinosaurid で確認され、水中生活の証拠とされた口先のセンサーが明らかな陸生動物のアロサウルスやネオヴェナトルにもあるってんで、スピノサウルス類にとってその構造が水中生活の証拠とは言えなくなったみたいです。
フクイヴェナトル Fukuivenator
ケルシーはともかくマイナーな恐竜が連日登場。
化石は大脳などが収まる脳函前部は失われていますが、後部はよく保存されていて脳の後部や内耳の形がわかったそうです。発達した三半規管や長い蝸牛管を持っていたことから、俊敏で耳が良かったとのこと。
ココロ社のトリケラトプスロボット。ミュージアムパーク茨城自然博物館にあるのと同じでしょうか? とりあえずかっこいい出来だと思います!
さて、今回紹介したのは展示物の半分(体感)だけです。この特別展はまだ1カ月弱ほどやってるので、残り半分にご興味ある方、画像じゃなく現物を見てみたいという方はぜひ足を運びましょう。特にペロトルムはもう日本じゃ拝めないかもしれませんよ?
脳の研究は、脳自体が解剖できるわけではない化石動物においてはマニアックな感じですが、脳のことがわかってくれば動物の感覚や社会性なんかを想像するのに参考になるでしょうね。さぞかし参考になるでしょう。
あと、ごく一部の恐竜でしかやられていない研究かと思っていましたが、かなりタクサによる隔たりのない感じで意外でした。
研究から導かれた結論は意外な物もありましたが、大半は骨格から想像した通りではありました。けど、様々な角度から反証したり裏付けたりできるのは素晴らしいと思います。
それじゃ👋
“恐竜の脳力” への2件のフィードバック