テリジノサウルス Therizinosaurus は発見されている化石が断片的すぎて復元可能とは言えない。現状完全に信用に足る復元はできない。 山本聖士
どうもケラトプスユウタです! 表題のとおり、復元教室のレポートやります。
あといつもカタカナの学名の後にアルファベットでも書いているのは別にカッコつけてるんじゃなくて、カナ転写の違いや分類階級の関係での誤解を避けるためなのよね(逆にない場合は不要と判断したかめんどくさくなったかだと思ってください。ここは重要なのになんでないんだよというのがあったら、お手数ですが教えてください)。
【全体】
テリジノサウルスの全体像を推し量るのは難しいが、テリジノサウルス類(科) Therizinosauridae という事だと完全に近い良好な化石がそこそこ出ている。
日本の恐竜も多くはそう。ムカワリュウはまともな復元ができる稀有な例だがタンバリュウではそうは問屋がオロロティタン。
テリジノサウルス類は急速に理解が進んでいる。テリジノサウルス類は爪が特徴だと思われているが、特別巨大なのはテリジノサウルスだけ。肉を切り裂く感じではないが、引っ掻かれたら重症を負うだろう。ブレード状になっちゃいるが、エッジが立ったところはない。
尾は短い。体が立っているので尾は水平に近い。尾の関節が上を向いていることがナンシュンゴサウルス Nanshungosaurus で確認された。
ファルカリウス Falcarius は尾が長く復元されているが、集団化石として見つかっている上、ファルカリウスのみからなるボーンベッドかどうかも定かではないので判断が難しい。
獣脚類だが動物を食べる構造ではなく、むしろ強植物食動物と思われる。
見つかっていないが体型からして頭は小さかっただろう。
頭の高さは6〜7m、腰の高さは3mくらい。キリンより背が高い。
全長はデイノケイルス Deinocheirus に匹敵。胴が太いので体重では上回っていただろう(7〜10t)
モンゴルのネメグト層最上部産。マーストリヒチアン後期よりは古いとされる。
テリジノサウルス類は基盤的マニラプトラ Maniraptora と言われるが、まだまだ系統的位置は変わると思われる。以前はオヴィラプトル類 Oviraotoridae の姉妹群とされていた。たしかにオヴィラプトル類との共通点はあるがそれはマニラプトラ自体の共有派生形質で、それぞれのクレードが激しく放散したので最終的な形が変わった。
テリジノサウルスは発見当初は巨大なカメに似た爬虫類だと思われた。しばらく放置されていたが、ナンシュンゴサウルスが発見された段階でグレゴリー・ポールが原竜脚類(側系統)の末裔と考え四足動物として復元した。
アメリカのノトロニクス Nothronychus の発見で直立に近い姿勢だったと考えられ始めた。水を飲むときはどうするんだと聞かれたら、それなりに無様な姿勢になったと答えるよ。つーかわざわざ水を飲む為の適応をするのは相当変わった生物。
体重を支えているつくりが優れていたのでたやすく巨大化できた。急速に大型化し、巨体によって身を守った。足は遅かっただろう。
想定される天敵はタルボサウルス。未発見の大型ドロマエオサウルス類がいたかもしれないが、テリジノサウルスの敵足り得なかっただろう。テリジノサウルスは体重ではタルボサウルス (4〜5t)を圧倒していたかもしれない。
ベイピアオサウルス Beipiaosaurus は全長2m程だが体型はすでに鈍重そうなものになっていた。どのように身を守っていたのだろうか。
ベイピアオは羽毛が知られているが、テリジノサウルスは大きさ的に羽毛があったかどうか微妙。大陸の盆地に暮らしていたので保温の用途としては不要。ベイピアオは指先の方まで羽毛の痕跡があった。風切羽の証拠はない。尾の先にも羽軸みたいなものがある。
ベイピアオの標本数はかなりの数が出ているがちゃんと記載されていない。
ビール腹のような体型になったのはなぜか。歯が植物を切り取る為の物で、ハドロサウルス類やケラトプス類のような咀嚼は行わず丸呑みにしていたと思われる。そのため大規模な内臓が必要だった。胃の中で物理破壊して鎧竜のように長い腸で植物を発酵させていたに違いない。
砂嚢は爬虫類全般に見られる。
獣脚類でここまで内臓を大きくしたグループは他にない。オヴィラプトル類は腰の下側に胴の一部が入り込むようになっている。
直立姿勢と内臓の大型化、どちらが先に進化が行われたかは不明。ファルカリウスの復元骨格は他のテリジノサウルス類と違いすぎて信用しづらい。
切り取り用の歯をしていては頰があっても意味がなく、歯列全体で剪断するのが得意だっただろう。
喉は大きく広げられただろう。植物食性獣脚類は全てそう。
【頭】
頭はエルリコサウルス Erlikosaurus で完全に近い標本が知られている。ベイピアオなどは潰れているし、ちゃんと記載されていない。
エルリコサウルスの下顎は先端が下向きに曲がっているが、テリジノサウルス類は頭骨のバリエーションがあった可能性がある(参考画像)。
構成している骨が細く、一見鳥の頭骨に似ている。
上顎の先は歯がなく、広い範囲がクチバシになっていた。
軽い作りで物を咀嚼する構造ではない。マニラプトラの中ではそれほど鳥類に近縁ではない。
くちびるがないと口は閉じれない。頰は裂けたつくりでもない。
現生動物には唇とクチバシを兼ね備えるものはいない。
顔の羽毛は鳥っぽく仕上げて良い。
正羽は発見されていない。
ナンシュンゴサウルスの下顎先端は上顎のクチバシが覆い被さる。
基本的に先細りの頭骨。
テリジノサウルス類の頭骨の基本構造は同じだが、前上顎骨のくびれ方に属差があったはず。
まずエルリコサウルスを見てみましょうね。
小型テリジノサウルス類のジャンチャンゴサウルス Jianchangosaurus の口先は背が低いが、エルリコサウルスは吻端の高さが増している。大型化に伴って口先の強化が起こったのだろう。
舌は細く半ば固定的だったと思われる。
【首】
エルリコサウルスがどのくらいの首の長さだったかはわからない。後期のテリジノサウルス類は頸椎が増えて長くなっている。
全体的にはゆるS字を描いているが、付け根の方は頸椎化した胴椎。全部合わせて12個で見かけ上は11個。獣脚類は10個が基本。
一個一個はそんなに長くなっていない。椎骨の形もさほど特殊ではない。神経突起が短いのはコエルロサウルス類の基本的な特徴で強肉食性のものは二次的に発達させている。
原始的なテリジノサウルス類ほど首が短く頭が大きい。
首は腰まわりの毛づくろいができるほどに柔軟に動かせたよう。テリジノサウルスがそこまでだったかは微妙(そもそも羽毛がなかったかも)。
かなり高い位置の葉を食べていた。オルニトミムス類 Ornithomimidae と比べて選り好みしないタイプ。
【腰まわり】
恥骨、坐骨は後方に傾斜していてかなり直立に適応していたのではなかろうか。
(非鳥類型)恐竜の中で体を直立させているのはテリジノサウルス類だけ。坐骨と恥骨は通常は上の方でしか関節しないが、テリジノサウルスは下の方でも突起が伸びて関節する。
腸骨の前方側が著しく拡張している。そうとう横向きにも広がっている。
肋骨が左右に広がっていることもわかっている。それはナンシュンゴサウルスなどからも確認されている。
中年太りのようにたっぷりとした腹。ここまで内臓の容積が大きい獣脚類は他に存在しない。体形的にはオオナマケモノ類に似ている。基本の姿勢でガニ股(ティラノなどは足を前に出す時はガニ股ぎみになるが、基本姿勢ではまっすぐ)。
竜脚類のように受け皿の如く広い面になった恥骨をもつ。
ティタノサウルス系類の腸骨に似ているがティタノは下向きには伸びない。
その突起で内臓を支えた。これが発達してないテリジノサウルス類はそれほど直立姿勢になっていなかったと思われる。
尾は短く退化していく傾向がある。
【後肢】
足首から先が極端に短い。
獣脚類は普通中足骨が足首の関節に参加しない。テリジノサウルスは中足骨の近位端が短くなっていて結果的に第1趾が2〜4と同等の長さになっている。この部分が原竜脚類であるとされた根拠。(あと歯も似ている)
膝から上をちょこちょこ動かすような歩き方だったかも。
白亜紀に出現した植物に対応するべく大きな内臓を獲得した植物食動物がさまざまなクレードから出現した。
脚が太短くなったのは細長い脚を保持する必要がなくなって為とも考えられる。
【前肢】
爪は全体的に薄いが縁の断面は丸っこい。
付け根の上の方は突起がなく、下の方は突起が大きいので手の甲側に曲げるよりも内側に曲げるベクトルの力が強いが、大きく深くは曲げられない。
長い爪のついた指が3本。
未記載だが2本指のテリジノサウルス類もいる(ナマケモノの例もあるし不思議ではない)。
特殊化は一様ではない。
指は普段は伸ばし気味だった(?)
ここまで爪が長いのはテリジノサウルス類でもテリジノサウルスだけ。指が大きいのは共通。
テリジノサウルスは肘はそこそこ曲げられただろうが、手首が指先の拡大に伴って偏平化していてあまり後方に曲がらない。
第1指が最長。第2も長く、第3だけ短く小さい。
爪の用途は枝を手繰り寄せるための道具だったかもしれない。身を守る武器だった可能性もある。
口でむしるたびに木の枝が跳ね上がるとめんどくさいから手で押さえると都合がいい。(オルニトミムス類は指を曲げると内側に収縮するような構造になっているので、枝を手繰り寄せることをしていたのかもしれない。普通の獣脚類は指を平行に曲げられる)
爪は角質がついて1mくらいの長さになるという説もある。
鳥のように折りたためる前肢から、そういうことをしない前肢に進化したらしい。
腕はさほど強靭ではない。胸筋は未発見だが大して発達していなかったので自由に動かせたと思われる。
デイノケイルスと比べて前肢は手先以外は短い。直立二足歩行だと上部をあまり重くしたくない道理。
絶対的には大きいが、身体が大きいので相対的には小さな腕。
オオナマケモノの腕は強靭なのでそこは違う。
獣脚類は指を最大限に外に広げるには開いた方が良いつくり。指骨を対向できる獣脚類はいない。
分岐した爪は樹上生活者のなごり?
テリジノサウルスは第1中足骨が短いまま(オルニトミムス類は3本の中足骨が似た長さ)だが末節骨まで含めると3が少し短いだけで大体同じような長さ。
【尾】
尾大腿骨筋はそこそこ発達。
付け根が太い。
大腿骨の後方幅はあるが長くはなっていない。重量バランスを再配分している。
腹が大きくなった分、尾の付け根側にも筋肉を分配して重心のバランスを取っている。
【表皮】
羽毛の本数は鳥より多い。現生鳥類は飛ぶ為に羽根を最小限に減らしていてそんなに密になっていない。
動かない空気の層を作るのが毛の断熱効果。
鳥類の羽は本来飛ぶ為のものではなさそう。
首の付け根の方は羽毛が密で、上の方はまばらだったかも。
ダチョウとかの首のように毛が少ないところで放熱したかも。
ベイピアオは首の周りに10cmにもなる羽毛が生えている。頸骨から想定される首の大きさに対して相当長い。
断熱性の羽毛が生えていると、体の本来のアウトラインより厚いシルエットになる。ベイピアオサウルスの羽毛は全身一様ではなく場所により複数種類の羽毛が生えていた。
それ以前の恐竜でどうだったかは不明。羽毛自体の化石は恐竜ではコエルロサウルス類からしか知られていないが、断熱性の繊維自体は恐竜以前から獲得されていた可能性がある。
鱗の要素は全く出ていない。
鱗はあっても全体としては細かな物だったかもしれない。手の甲などに部分的には板状の鱗があったかも。
ベイピアオの毛はヒクイドリの棘状の毛に似ているらしいが、そこまで固くないはず。
表皮は羽毛が生えていた動物から進化した事を踏まえて復元すべき。
【卵】
テリジノサウルス類の卵は球形。胚も知られている。