バッドランドの恐竜たち 〜北アメリカの1億年〜 パート2

前は標本の名前太字にしてたっけ?ケラトプスユウタです。

表題の通り、続きやっていきます。

第4章「百花繚乱」は、恐竜時代のハイライト、後期白亜紀(特にカンパニアン〜マーストリヒチアン)の化石コーナーです。

コリストデラ類(Choristodera)チャンプソサウルス(Champsosaurus)

キャプションで必ずと言って良いほど「一見ワニに似てるけどワニとは遠縁です」と解説される動物ですな!!!

ドロマエオサウルス(Dromaeosaurus)

ビスタヒエヴェルソル(Bistahieversor)

そういえば最近ラボカニア(Labocania)の新種とやらが記載されたそうですね。詳しくは論文をどうぞ。

TMP 1999.033.0001 ゴルゴサウルス・リブラトゥス(Gorgosaurus libratus)

恐らく本展最大の目玉展示。デスポーズのゴルゴサウルスといえばTMP.91.36.500がなにぶん常設なので有名ですが、保存状態で言えばこちらの方が優れていますね。頭の先から尾の先まで関節した状態で保存されており、ポストクレイニアルの変形もほとんどないようです。頭骨も左側面以外はそれほど変形しているようには見えません。

展示可能なティラノサウルス類(Tyrannosauridae)の標本の中で、これほど胴体が美しく保存されたものが他にあるのでしょうか?

鼻骨のギザギザ、若さの証。

前肢はほとんど見えませんが、かろうじて腹肋骨が見れると言えば見れます。本来、全方位が観察できるように展示したかったそうなのですが、やむを得ず実現できなかったそうです。まあタダ同然で遥かカナダから持ってきて頂き、観せて頂いている分際で文句は言えません。

恥骨の腹側は意外と幅が狭いことがわかりました。

尾椎はおそらく先端まで保存されていますが、少なくとも僕はティラノサウルス類の尾椎先端の実物を目にするのは初体験でした。

友人の82太郎さんにご教示頂いたのですが、この標本はTMPの現在ボレアロペルタ(Borealopelta)が展示されている場所に置かれていたそうです。つまり地元アルバータ州でも「奇跡それ自体」として位置付けられていたわけです。そんな貴重な物を動かさないで欲しいと、文字で言いつつ心で感謝です。そう、日本人には三つの心があるのです。

テスケロサウルス・ネグレクトゥス(Thescelosaurus negrectus) 頭骨

後頭顆からすると首の角度はかなり俯きがちだったみたいです。

科博の実骨入りマイアサウラ(Maiasaura)
こどもがいなくて寂しそうです。
プロサウロロフス(Prosaurolophus)実物

海成層であるベアパウ層(Bearpow formation)産、全半身の大部分が関節した幼体。左の方に丸っこい形で残っているのは皮膚印象です。

ヘル・チキンことアンズ(Anzu)

厳重にケースに格納されてましたけどレプリカです。実物が来る予定だったのでしょうか。

アンズの中足部。そしてアンズはカエナグナトゥス類(Caenagnathidae)。アークトメタターサル構造って義務教育ではティラノサウルス類、オルニトミムス類(Ornithomimosauria)、トロオドン類(Troodontidae)、アルヴァレスサウルス類(Alvarezsauridae)の4クレードのみの特徴と教わりますが、これアークトメタってますよね?ご意見求む。

漆黒のティラノサウルス(Tyrannosaurus)ことブラックビューティー(Black beauty)。実物頭骨。FPDMの最初の特別展「ロイヤル・ティレル古生物学博物館の恐竜たち」ではブラックビューティーのウォールマウントが来ておりその際の来日は実現しなかったのですが、20数年越しの来日が実現したわけですな。ちなみにブラックビューティーのレプリカのマウントは当館の常設です(メインの恐竜の展示室ではなく向かって右側の比較的狭い展示室のティラノサウルス)。彼女と同じ地層からはコーリ(Calli)と呼ばれるトリケラトプス(Triceratops)も産出していてやっぱりマンガンの影響で黒い色をしています。82太郎さん曰く、欠けている下あごの骨は現場(クロウズネスト)に残っているはずだけど当日の技術では掘り出せなかったそうで、クロウズネストは現在ダムの底だとフィリップ・カリー先生が仰っていたそうです。いつかダムを破壊して回収できればと思います。
セントロサウルス亜科(Centrosaurinae)。手前のマウントはエイヴァ(Ava)ことフルカトケラトプス・エルキダンス(Furcatoceratops elucidans) NSM-PV 24660。奥は左からパキリノサウルス・ペロトルム(Pachyrhinosaurus perotorum) DMNH 21460、アケロウサウルス・ホルネリ(Achelousaurus horneri) MOR 485、ゼノケラトプス・フォレモステンシス(Xenoceratops foremostensis) CMN 53282、スティラコサウルス・アルベルテンシス(Styracosaurus albertensis) CMN 344

アケロウだけ上下から潰されています。元からこういう顔というわけではないので勘弁してください。

ケラトプス科(Ceratopsidae)は後期白亜紀の北米で大型化と多様化を遂げましたという展示。その中で理由はわかりませんが、カスモサウルス亜科抜き、セントロサウルス亜科のみで展示を構成しています。エイヴァは恐竜博2023ぶりの再会です。この展示ではレオナルド・マイオリーノ(Maiorino)先生らの2015年の研究を参考にしているため、ゼノが上眼窩角が退化した派生的セントロサウルス亜科の系統であるエウセントロサウラ(Eucentrosaura)として扱われている上、スティラコは特にパキロストラ(Pachyrostra)(つまりアケロウとパキリノ)に近縁という位置付けではないようです。ゼノがスティラコとアケロウの間に置かれているのはその為です。一方、このゼノの頭骨模型は基盤的セントロサウルス亜科として復元されたものなので、上眼窩角が生えてしまっているので、配置と復元が噛み合っていない感じになっています。とはいえ僕の知る限りゼノの復元頭骨はこのタイプしか存在しないので無理もないですね。

それにしても、突然この世に現れ一気に多様化したケラトプス類の偉大さは何度思ってもすごいですね。また、顔だけで同定できる恐竜類というのも、普段顔で同種の個体識別をしている我々ヒトにとって非常にとっつきやすく親しみやすいものという認識も改まりました。

紹介できる展示はここまでです。長い間お付き合いいただきありがとうございました。

いやはやいやはや!北米の中生代の恐竜を地質時代順に展示するというテーマ選びは原点回帰という感じがして、リニューアル後の最初の特別編に相応しいものであるように思いました。

そして相変わらずの日本初公開の実物化石の数々。まったく不安に思っていたわけではないですが、この不況を吹っ飛ばすような贅沢な体験は期待以上でした。

限られた空間で最高の観察体験を提供してくださった福井県立恐竜博物館、ロイヤル・ティレル古生物学博物館、恐竜国定公園、ブリガムヤング大学古生物学博物館、株式会社コーワさん、日通美術さん、パレオサイエンスさんその他全ての関係者に感謝申し上げます。

来年の特別展も今から楽しみにしております。

それじゃ👋

参考文献:Leonardo Maiorino, Andrew A. Farke, Tassos Kotsakis, Luciano Teresi, Paolo Piras, 2015, Variation in the shape and mechanical performance of the lower jaws in ceratopsid dinosaurs (Ornithischia, Ceratopsia), Journal of Anatomy Volume 227, Issue 5 p. 631-646.

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