「スミソニアンのやつは尾を太く造りすぎ( ・ω・)」山本聖士

2日連続の復元教室レポートということで、番外記事になりますがご興味ある方はお付き合いください。
アロサウルス Allosaurus のホロタイプはYPMなんとかという標本だけど、NMNHのをネオタイプにしようという話もある。
昔はジュラ紀のアロ、白亜紀のティラノで頂上決戦の名乗りを上げていたが、いろいろな大型獣脚類が知られてくるにつれ地味な存在になりつつある。でもバランスが良いので人気。
近縁と言われているメトリアカントサウルス科 Metriacanthosauridae やカルカロドントサウルス科 Carcharodontosauridae は似ているところもあれば違うところもある。
アロサウルスは異端。歯も小さめで奇妙。
アロサウルスはポルトガルでも発見されていて(エウロパエウス A. europaeus)地理的隔たりがなければアロサウルス・フラギリス A. fragilis でも良いような形態。
フラギリスの全長は約7mで、でかいほうではない。ゴルゴサウルス Gorgosaurus よりも背が低い。体格はがっちりしているので1tは超える。尾は短いことがわかってきたのでますます小さい。
ステゴサウルス Stegosaurus なんかと戦いを繰り広げた証拠がある。アロサウルスにスパイクが刺さった跡や、ステゴサウルスにアロサウルスが噛み付いた跡など。いくつかは病変の可能性もあるが。
ステゴサウルスは2t超なので大物狙いの部類。
成体の竜脚類 Sauropoda は普段狙うような獲物ではない。竜脚類を狙うのはトルヴォサウルス Torvosaurus とか。
群れで竜脚類を襲っているイラストもあるが、実際にやっていたかは不明。
集団化石が見つかっているが、アロサウルスが保存されやすい環境が地層として残りやすかっただけのように思われる。
生態系内で支配的な肉食動物だったとは言える。
統制の取れた群れというより、サメの狂乱索餌のように一頭が襲いかかった際に血の匂いにつられて別の個体たちが群がる…という方が可能性が高そう。基本的には単独行動ではなかろうか。
モリソン層の最後の方の層は竜脚類の巨大化に伴ってアロサウルスも巨大化したフシがある。
南部の博物館に行くと未だに尾の長い三点支持のアロサウルスのマウントが見られる。

カルノサウリア Carnosauria はもともと尾は先細りで極端に長くない。ビッグアル2以外のマウントは長い尾で復元されていることが多い。
マウントは研究者が監修しているとは限らないし、業者が独自に作ったのを博物館が購入しているだけだったり、監修した研究者の考えが古かったりもするので信用はできない。
肉が付いていないので、骨だけだと重心が本来のものと変わるという問題もある。
国立科学博物館のアロサウルスの頭骨は大部分がアーティファクトだし、尾も長すぎて手の組み方も間違っているので参考にしづらい。

産状がわかっているものは情報を集めた方が良い。
【頭】
他のカルノサウリアと比べると大きくないが、そのわりに頑丈な構造。上下を支える骨がぶっとい。鼻先のつくりも堅牢。ほとんどの獣脚類の鼻先は細い。
歯が短い。カルカロドントサウルス Carcharodontosaurus の歯は歯槽に埋まって見つかったものがないんだが、カルカロドントサウルス類の前方の歯はかなり長かったはず。
ナイフ状で少し後ろに曲がった歯で、前後にセレーションが付いている。歯列後方は一様な長さ。
歯の断面は半D字型になりつつある。
顎の先が丸っこく、ティラノサウルスの縮小版のような味があることはある。
普通の獣脚類同様、下顎の歯列が上より短い。
歯列の長さを最初に決めて、その範囲に正確な本数を描くと良い。
頰はティラノサウルスのようにすごく広がっているわけじゃない。
(片側) 前上顎骨歯6本、上顎骨歯16本、歯骨歯14〜17本(個体差あり)
アロサウルスはティラノサウルスに比べると口蓋に穴の空いている部分が多い。
ティラノサウルスは頭骨全体の噛み合わせを強化するために穴が塞がっている。
アロサウルスの下顎は細く、先の方が華奢。下顎は常に上顎より狭い。歯ではなく顎同士で噛み合う形状。
噛み付いた圧力の研究によると、頭を叩きつけるような方法で獲物に歯を打ち当てていたのではないかと言われている。獲物になり得た動物の骨にそのような痕跡は未発見だが、それは当然で、肉だけを削ぐような攻撃なので歯は骨には達しない。
下顎が大きく広がって獲物を丸呑みにしたかも。
頭骨が高いので、広がる必要性はない。
カルカロドントサウルス類と比べると後方が強固なのでアロの頭は言われているほどぐにゃぐにゃ曲がらないだろう。
頭蓋遊動性があると咬合力が下がる。
ビッグアルは涙骨の突起が短いタイプで、復元頭骨は間違っている。
長い首で頭を打ち付ける戦術は、アベリサウルス類 Abelisauridae と共通。アベリサウルス類も歯が短く口先が頑丈。
短い歯は折れにくいが深い傷は作れない。3ヶ月〜4ヶ月で生え変わる。
フラギリスの中にも2タイプある。涙骨の突起の大きさと鼻先の短さの違いで2タイプ。成長段階の差とも言われ、性的二形や種差ではないと言われている。
ジムマドセニ A. jimmadseni は涙骨の突起が目に食い込む形で、頬骨の後方の出っ張りがない。
ジムマドセニとして知られる標本は亜成体かもしれない。
涙骨の突起は(個体が)成長すると小さくなったかも。
マドセンによる頭骨の図はコンポジットであり、観念図になっている。👇
恐竜公園アロは頭骨が完全だからなんでそれをそのまま描かなかったのか。
ビッグアル1は頭骨上部前方と尾の先以外全部発見されているが、めっちゃ潰れてる。
【首】
頸椎は10個で見かけ上は9個。S字の首を前後に動かしたり、首を軸に頭を回す動きが比較的得意。
【前肢】
獣脚類では珍しく、上腕と下腕の両方が短くなっている。普通は下腕だけが短くなる。
手は狩には役立たなかったと思われる。武器は頭に集中。
肩甲骨はありがちな獣脚類のもので、関節面も後方向きで上腕骨はよく曲がっている。ティラノサウルスの上腕骨はめっちゃまっすぐ。
腕は肉がガッツリついて半分くらい胴体に埋もれて見えたと思われる。
手はけっこうでかいが獣脚類では普通。手だけ取り残されたように大きいまま。
鉤状に曲がった爪。角質で更に強調される。
第1指が一番大きい。外に向かうにつれ小さいものになる。
屈筋は発達しているわけじゃなく、腱で引っ張って指を曲げた。掌は骨ばって見えたと思われる。
幼体の標本で、手首を鳥のように曲げた状態で関節してるのが知られているので鳥っぽい前足だったかも知らんが、成体もそうだったのかは不明。
爪の断面は丸っこく、獣脚類の基本形。
【胴体】
マウントの胸郭が分厚く造られていることが多い。標本は潰れちゃぁいるが、補正しても実際はそこまで厚くない。

骨盤にも違いがあり、獣脚類は基本的に腰が狭く、アロもそうだが、腸骨を上から見た時にくっついていない。ティラノでは左右でくっついている。
二足歩行動物は正中線に近い位置に脚を配置しないと歩く時に腰を大きく振る羽目になるので、腰が狭い方が有利。
【後肢】
アロの後肢は国立科学博物館のマウントでも観察可能。
腰は速く走れる構造ではない。小型鳥盤類には敵わない。
獲物になりそうな動物は片っ端から鈍足だったからスピードを発達させる必要はなかった。
腸骨は獣脚類として標準的な長さ。腸骨は脚の筋肉の太さに関連する。
第四転子は上の方によく発達している。
恐竜ほど尾大腿骨筋が発達している動物はいない。ワニや鳥では目立たないが、オオトカゲの尾の膨らみは尾大腿骨筋由来なのでモロに参考になる。
足先は鳥と同じで腱質で筋肉に覆われていない。
脚の裏側にも筋肉はあるにはあるが、それは足首の裏側から伸びる細い筋肉である。その上を靭帯が覆うので目立たないが、横から見ると厚みがあるように見えるはず。
中足部は脛の半分以下の長さ。末節まで含めると下腿部と同じくらいの長さ。
足裏に丸いパッドがある。今の鳥にも見られる。ほぼ指先だけで接地している状態。
コンカヴェナトル Concavenator の足先は鱗で覆われていたことが知られているが、鳥みたいに裏側が細かい鱗で覆われていたかはわからないよ! 脚の前側も鳥みたいに描かれることが多いが証拠はない。
以上だばーろー
これはケラトプスユウタによる生体復元。