FPDM 獣脚類2025 #2 ティランノサウルス上科

好きなクワガタを聞かれてノコギリクワガタと答えたら普通種じゃんと笑われたことがあります。ケラトプスユウタです。

前回の続き(福井県立恐竜博物館の特展「獣脚類2025」)のレポートです。早速見ていきましょう。

博物館の看板、フクイラプトル Fukuiraptor

系統的位置付けで議論になる恐竜です。このマウントでは昔ながらの復元で未発見部位の少なくとも一部はメトリアカントサウルス類 Metriacanthosaurid を参考に復元されていますが、ここでは今日有力視されている考えに則ってメガラプトル類 Megaraptora の基盤的位置付けとして紹介されています。

たぶんフクイラプトルの「ラプトル」はキタダニリュウの頃にドロマエオサウルス類 Deomaeosaurid と考えられていた事、あるいはシンラプトル Sinraptor から取っているのかなーと思うのですが、今だとメガラプトル類のラプトルのように読めてしまうのは、なんとも「属名にラプトルのつく獣脚類は多いのでそういう事もあるでしょう」と言ったところです。

Naish & Cau (2022) によると、メガラプトル類はティランノサウルス上科 Tyrannosauroid の中でティランノサウルス科 Tyrannosaurid の姉妹群の位置とされていて、この特展でもその説が採用されていました。

2025/9/25追記: Lucio M. Ibiricu, et al. (2025)の系統解析によると、メガラプトル類はティランノサウルス上科の姉妹群の位置付け、つまり非ティランノサウルス上科という事になっています。まだメガラプトル類の具体的な系統的位置づけについてコンセンサスが得られるのは先になるかもしれません。

イギリスのカルカロドントサウルス類 Carcharodontosauria 、ネオヴェナトル(キャプションではネオベナートル) Neovenator

このマウントは、以前の獣脚類展では目玉展示の扱いだったのをおぼえています。

ネオヴェナトルはカルカロドントサウルス類でありながら、ティランノサウルス上科とも似ているところがあるらしいです。

タイのメガラプトル類、ヴァユラプトル Vayuraptor

ちょっとこれは僕には難しいですね。

ところでヴァユラプトルの属名はヒンディー語とラテン語の合成語で、「風泥棒」を意味するものらしいですが、一体どういう状態になったら風を盗んだ事になるのでしょうか。

フウィアングヴェナトル(キャプションではプーウィアンベナートル) Phuwiangvenator

はじめて聞きました。竜脚類 Sauropod のフウィアンゴサウルス Phuwiangosaurus, スピノサウルス類 Spinosaurid のシアモサウルス Siamosaurus やオルニトミモサウリアOrnithomimosauria のキンナレーミムス Kinnareemimus などと共存していたらしく、要するにバーレミアン期のタイにも勝山のような動物相が存在していたということが僕にもようやく見えて参りました。

メガラプトル Megaraptor

これも前の獣脚類展でネオヴェナトルと共にメインに近い扱いをされていました。

メガラプトル類がティランノサウルス科の姉妹群だとするとこのように前足の大きい種を生み出した事が不思議です。(ティランノサウルス科は前肢が小さいので。)

手の向きは最近なおしたみたいです。

ディロン Dilong

中国産の基盤的ティランノサウルス上科 Tyrannosauroid Naish & Cau (2022) によると、メガラプトル類よりもティランノサウルス科とは遠縁の位置付けとの事。

ディロンというと全長2mないくらいのイメージがありますが、ホロタイプは幼体らしく、少しは大きくなるっぽいです。

エオティランヌス(エオティラヌス) Eotyrannus

これ最近の特展でオマケ程度に展示されてましたよねえ?

発見部位と未発見部位が比較的わかりやすい頭骨です。

頭骨要素は不完全ですが、左右の鼻骨が癒合しているのでティランノサウルス上科とわかるそうです。すごいですね。

アシアティランヌス(アジアティラヌス) Asiatyrannus

ぅつくしぃ〜!

ライティングのおかげか雰囲気が出ていますね。この特展ではこの展示が一番ジューシーで素晴らしかったです。側面は360度拝めるように工夫されています(頭骨側面がという意味ではないです)。

アシアティランヌスはティランノサウルス亜科 Tyrannosaurinae のティランノサウルス科なのでだいぶティランノサウルス Tyrannosaurus に近縁な動物になります。このアングル、けっこうティランノサウルスっぽいですよね?

左斜め後ろからのアングル。

キャプションに書いてあった事が面白くて: ネメグト層(モンゴル)では大型ティランノサウルス亜科のタルボサウルス Tarbosaurus とアリオラムス族 Alioraminiのアリオラムス Alioramus が共産し、一方、江西省ではこの小型ティランノサウルス亜科アシアティランヌスと大型アリオラムス族キアンゾウサウルス(チエンジョウサウルス) Qianzhousaurus が共産。つまり、ゴビ砂漠ではティランノサウルス亜科(頭の上下幅が広いティランノサウルス科)が大型なのに対し、中国ではアリオラムス族(頭が細長いティランノサウルス科)が大型なので、両者のニッチが逆転していたかもしれないとの事。

「ティラノサウルス亜科が頂点捕食者、アリオラムス族はそれに次ぐ」という理解がしっくり来るのに、地域によっては逆転している可能性を示唆するものです。現代で言うと、「イヌ科が大きくネコ科が相対的に小さい環境(サハラ沿辺のアフリカキンイロオオカミとカラカルなど)」と「その逆の環境(ジャングルのヒョウとヨコスジジャッカルなど)」のようなものなのでしょうか。

これが正しいとすれば、それぞれ得意な獲物が違ったと思うので、環境がどう違った結果そうなったのか邪推が捗ります。

ただ、わかりやすく面白すぎますね。そう単純ではないのではないかと僕は思います。例えば、既知のアシアティランヌスは未成体らしいですがタルボサウルスのような体躯になるのではないかとか、逆にアリオラムスもキアンゾウサウルスのような大きさにはならなかったのかとか考えてしまいます。

それとは関係なしに、キアンゾウサウルスの展示もあったらより良かったのですが、高望みというものですね。以前の獣脚類展では歯が一本もない頭骨が展示されていましたね。数年前の特展で展示が予告されていましたけど、何か事情があるようです。

きれいな成体復元模型(手前)と復元頭骨。

つづきはまた次回。

それじゃ👋

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参考文献:

*Naish, D., & Cau, A., 2022. The osteology and affinities of Eotyrannus lengi, a tyrannosauroid theropod from the Wealden Supergroup of southern England, PALEONTOLOGY AND EVOLUTIONARY SCIENCE

*Zheng, W., X. Jin, J. Xie, & T.Du. 2024. The first deep-snouted tyrannosaur from Upper Cretaceous Ganzhou City of southeastern China. Scientific Reports 14:16276.