Pasado mañana ってメキシコ人はあまり言わないらしい。ケラトプスユウタです。
前回キャプションしか紹介できなかった『東京たま大恐竜展』の続きいきます。

コプロライトかと思いきやストロマトライトのようです。ストロマトライトは本質的には層構造そのものが重要だと僕は勝手に思っているので、展示価値のメインは断面にあると思います。実際ほとんどの展示会・施設では断面を見せています。外側だけ見ると、多くの標本はこの通り、ただの丸い岩・コブ状の石灰岩にしか見えないので波状の葉理や堆積と成長の反復は確認できないですよね。
とはいえ、元々のサイズ感、岩石として自然界でどう見えるかを体感させるには外観が重要なのでこの展示にも一定の意義はあると思います。まあその為には最低でも研磨断面がわかる何か、理想的には成長模式図、現生ストロマトライト写真なんかも展示してほしいところです。

“本物化石”って表記ははじめて見ました。日本語って豊かですね。
あと細かいですが種名じゃないのにイタリックなのが、気にならないといえば嘘になります。

アサプルタス Asapltas という三葉虫で実物化石らしいです。

巨大三葉虫として名高いテラタスピス・グランディス Terataspis grandis 模型

ドロトプス・メガロマニクス Drotops megalomanicus 実物
見栄えはするかもしれませんが少なくともこういう状態で保存されていた標本ではないでしょう。
ちなみに属名は目が発達していることから「目のある顔」、種小名はその体の大きさから「誇大妄想」という意味のようですが、左に何倍も巨大なテラタスピスがあるので大きさがばっちり霞んでいます。

ダクテュリオケラス・アトレティクム(ダクティリオセラス・アスレティカム) Dactylioceras athleticum 実物
中世ヨーロッパでスネークストーン伝説の元になったやつですね。これも本当の産状かは僕にはわかりませんが、このように密集して見つかる事が多いそうです。

クレオニケラス(クレオニセラス) Cleoniceras
アンモライトではないですが石になってなお真珠層がきらめいています。

“小さくとがった歯が何列も並んでいた”ってアンモナイトの形質として想像つかないんですが、どういうことですか?
あと、あるあるのミスですが、 sp. がイタリックになっているので僕がエディターだったらこのキャプションはリジェクトします。

タルボサウルス・バタール Tarbosaurus bataar のアタマ。
下から照らされていて幽霊のようです。

同じく左足。
お馴染みアークトメタターサルを見せたい展示のはずですが、キャプションではなぜか他の骨でもなく糞の説明がされていて不思議でした。

これですね。

ケラトサウルス Ceratosaurus
これはなかなか日本では見る機会がないですね。

アロサウルス・フラギリス Allosaurus fragilis
キャプションにジュラ紀の肉食恐竜最強と書いてあるのですが、この個体だと正面のケラトサウルス頭骨と比べて似たような大きさなので、先入観のない来場者から見たら疑問を持たれそうです。
そしてそこの恐竜オタク、トルヴォサウルス Torvosaurus は言及不要です。

アロサウルスの左手。
この日、全く同じパーツを別々の三箇所で拝む事になろうとはまだ知る由もありませんでした。

ガストンデザイン社のステゴサウルス Stegosaurus のプレート。勤め先にまったく同じ標本が展示されているので顔馴染みならぬ板馴染みです。

ガストンデザインの看板商品(売れ筋とは言ってません)。ガストニア Gastonia 頭骨。
キャプションには“頭はアンキロサウルス科 Ankylosauridae で体はノドサウルス科 Nodosauridae の変わった鎧竜 Ankylosauria ”みたいな事が書かれていましたが、そんな事はないですよね。典型的なノドサウルス科の頭をお持ちかと思います。
余談ですが、ケダルペルタ Cederpelta なんかは“頭はノドサウルス科で体はアンキロサウルス科どうか知りませんが変わったアンキロサウルス科”のように僕には見えます。

ガストンデザインのユタラプトル Utahraptor 右後肢。直感的にはシックルクローが大きすぎる気がしますがそれはわかりませんすみませんごめんなさい。
キャプションでは群れ行動について触れられていますが、明確に群れで行動していたと断定できるような証拠はかなり弱いですよね。
その証拠で有名なのは、ユタ州のダルトン・ウェルズ採石場 Dalton Wells Quarry などから複数個体が出ている事ですが、これは「同時に生活していた群れ」なのか、「偶然同じ場所に集積しただけ」なのかは何とも言えないのではないでしょうか (Gates et al., 2010)。このボーンベッドには成長段階の違うものも含まれますが、これも別に社会性の証拠にはなりません。
同じドロマエオサウルス類 Dromaeosauridae の デイノニクス Deinonychus は複数個体の歯や骨が見つかる例が恐竜ルネッサンス期から有名で、「群れで大型草食恐竜を襲ったのではねえか」という仮説が強く広まったのはご存知のかた多きかなと思いますが (Ostrom, 1969; Maxwell & Ostrom, 1995)、近年はこれも再検討されていますよね (Roach & Brinkman, 2007)。単に死体に群がっただけ説もあります。ドロマエオサウルス類=オオカミみたいな高度な協力狩りは今やレトロな復元イメージで、現在は 鳥類未満とワニ以上の社会性を想定するのが主流という感触です (Roach & Brinkman, 2007)。
特にユタラプトルは大柄でマッシヴなので、1頭でも仕留めきれる獲物も環境中に少なくなかったのではないでしょうか。

オヴィラプトル類 Oviraptoridae の卵と思われますが謙抑的に獣脚類 Theropoda となっています。これは展示会全体のクオリティからするとプロトケラトプス Protoceratops の卵扱いでも不思議ではなかったので、えー、素晴らしいキャプションではないでしょうか。

テリジノサウルス Therizinosaurus の特徴的な爪節骨(末節骨)。よくパレオサイエンスさんが展示即売会で扱っているシリーズの一つです。

テリジノサウルスの卵とされるもの。
卵化石の産み主を推定するのはエンブリオがないと相当難しいはずですが、少なくともテリジノサウルス属の卵と断定する証拠はないはずです。
これは球形に近い形なので個人的にはそもそも獣脚類らしくないと思います。“白亜紀後期モンゴル”という情報が正しいと仮定すると竜脚類 Sauropoda か鳥盤類 Ornithischia という事もあり得るかなと思います。

モササウルス類 Mosasauridae の歯。
キャプションには“モササウルス(レイオドン) 歯(本物化石) Mosasaurus (Leiodon) cf. anceps” とあります。
Confer までイタリックになっている事は置いとくとして、2つの異なる属名が併記してあるのは奇妙ですね。
Leiodon というのが見覚えがないので調べたところ、リオドン Liodon というモササウルス科 Mosasauridae の属のシニアシノニムで(どのみち聞いたことない)、Leiodon という属名自体はフグ類に先取されている無効名のようです。で、ややこしいのがリオドンもイギリス産の断片的な化石で知られる疑問名という事です。そんなのどっから引っ張ってきた?
L. anceps という種名はリオドンの模式種の名としては正確のようです。
少なくともモササウルス属 Mosasaurus の部分はモササウルス科 Mosasauridae の誤りでしょう。
あと野暮かもしれませんが、気になったのが“モササウルスのヒレは足に進化してた”という解説です。確かにサカナのヒレが四肢動物の足に進化したという意味では正しいとも言えなくはないですが、絶対逆ですよね。「足がヒレに進化してた」ですよね。

ティロサウルス Tylosaurus
大絶滅展に展示されていたのと同型ですね。
キャプションでは“モササウルス 頭骨 Mosasaurus Leiodon” となっています。ホウレンソウの値札に「コマツナ、チンゲンサイ」と書いてある感じでユニークです。

もはやお馴染み“モササウルス(レイオドン) Mosasaurus Leiodon”
どう見ても隣の標本(上の画像)とは別属だと思うのですが、種レベルで同一という解釈で展示されています。

スピノサウルス Spinosaurus の歯
“獣脚類 竜盤類”という下位分類→上位分類という順が珍しいですね。
ちなみにスピノサウルス・アエギュプティアクス(エジプティアクス) S. aegyptiacus とされる標本のキャプションは三つあったのですが、全て種小名に脱字がありましたのでお手数ですが次回までに直していただけると幸いです。

下顎骨の模型にスピノサウルスの歯を埋め込んだと思しき代物。そうやって付加価値をつけて売るというのが、できるビジネスマンの仕事ってことですね。

ある意味で不気味な“スピノサウルスの爪節骨(末節骨)”

タルボサウルス Tarbosaurus 前肢。
なお本展全体を通して前肢と後肢は前脚と後脚という表記で統一されていました。
このキャプションでは地質時代に相当する部分に“上部白亜紀セノマニアン”と書かれていましたが、「上部」は地層の位置という「場所」を説明する用語で「白亜紀」は時代という「時間」を説明する用語なので、記述的にはありえない表記になっています。地質時代を表すなら「後期白亜紀」、地層を表すなら「上部白亜系」となるべきです。勉強になりましたね。
まあそもそもセノノマニアンって後期白亜紀の最初の時代でタルボサウルスはまだ現れていないはずなので、そこからおかしいんですけどね。でもステージの存在を忘れずに書こうと思った気概は、えー、かっこいいですね?

タルボサウルス 足の爪節骨(末節骨)
こっちのキャプションだと“白亜紀後期マーストリヒチアン”になってました。

“カルカロドント脊椎骨”
「サウルス」を省略して親しみを込めている感じなんですかね。
“アフリカンティラノとも呼ばれている”らしいです。不勉強で知りませんでした。

トリケラトプス Triceratops 上眼窩角
ガストンデザインの商品でお馴染みのやつです。
ちなみに2026年5月13日閲覧時点で350ドルでした。55,000円くらいなので、細短めの角一本とはいえ近年のトリケラトプスのレプリカとしては安い気がします。
解説の見出しは“大きなフリルは異性を惹きつけるディスプレイ”で、本文では“角と体の大きさ”についてのみ書かれているのがなかなかブレイブですね。

バリオニクス Baryonyx 第一指爪節骨(末節骨)。
展示順は概ね年代順かと思っていましたが、そういうわけでもなかったですね。

『ジュラシック・ワールド』シリーズのの公式かその影響を受けた商品かわかりませんが、ジュラシック・ワールドのバリオニクスとしてはよくできています。

“ホオジロザメ属”としておきながら学名では“Otodus megalodon”を採用しているという矛盾。好きだなー、矛盾。
このあとティランノサウルス(ティラノサウルス) Tyrannosaurus の展示が来るわけですが、バリオニクスとティランノサウルスの間に新生代軟骨魚類が展示されている展示会はここだけでしょう。

ティランノサウルスのしたあご。
キャプションに“象牙質の歯根は溶けて新しい歯が生えてくる様子が確認できます”とありました。よくわからなかったんですが、あくまで「世の中にはそういう標本もある」という話でこの標本で確認できるという意味ではないんですかね。

ティラノサウルスの足の爪節骨。本展、やたらと獣脚類の単離した爪節骨レプリカの展示が目立っています。

6000万〜6600万年も時を下った時代の動物、ホモテリウム Homotherium の頭骨が脈略なく登場。
いやはやいやはや!全体的に展示物そのものよりもキャプションのダメ出しが多くなってしまいましたが河豚汁を食わぬは男のうちではないというものですよね。
アニマトロニクスがメインで実物やレプリカは10点もないかと思っていましたが、量的には想像より多くその点は期待を上回りました。ラインナップ面で気になったのは満遍なく多様な恐竜を展示しているように思わせつつ、竜脚形類、鳥脚類、堅頭竜類の展示が皆無、その一方でメガロドンやモササウルス(類)など映画で名前だけは一般によく知られた古生物は押さえているなど子供向け感は否めません。いや、薄っぺらな子供騙し感を全面に出しているのが理解できたと言い直しましょう。
次回はいよいよアニマトロニクス登場です。
それじゃ👋
***
参考文献:
- “Liodon”. Wikipedia: The Free Encyclopedia. Available at: English Wikipedia – Liodon (mosasaur) (Accessed: 13 May 2026).
- “Leiodon cutcutia”. Wikipedia: The Free Encyclopedia. Available at: English Wikipedia – Leiodon cutcutia(Accessed: 13 May 2026).
- Gates, T.A., Scheetz, R.D. & Lund, E.K. (2010) ‘Taphonomy of debris-flow hosted dinosaur bonebeds at Dalton Wells, Utah (Lower Cretaceous Cedar Mountain Formation, USA)’, Palaios, 25(10), pp. 707–720.
- Maxwell, W.D. & Ostrom, J.H. (1995) ‘Taphonomy and paleobiological implications of Tenontosaurus–Deinonychus associations’, Journal of Vertebrate Paleontology, 15(4), pp. 707–712.
- Ostrom, J.H. (1969) ‘Osteology of Deinonychus antirrhopus, an unusual theropod from the Lower Cretaceous of Montana’, Bulletin of the Peabody Museum of Natural History, 30, pp. 1–165.
- Roach, B.T. & Brinkman, D.L. (2007) ‘A reevaluation of cooperative pack hunting and gregariousness in Deinonychus antirrhopus and other nonavian theropod dinosaurs’, Bulletin of the Peabody Museum of Natural History, 48(1), pp. 103–138.
