逆転裁判 逆転の恐竜

この作品は、カプコンのゲーム『逆転裁判』シリーズを題材にした二次創作です。

原作の著作権は株式会社カプコンに帰属します。

本作品は非公式のファン創作であり、公式の設定・展開とは一切関係ありません。

また、営利を目的とせず、ファン活動の一環として公開しています。

──イントロ──

【自然史博物館】

テレビ番組『知って得する化石の話』生中継。

カタクリバラ博士「こちらがパキケファロサウルスの復元模型です!

パキケファロサウルスは完全にハゲです!

頭頂骨がドーム状に盛り上がり、見ての通りまるでツルッパゲです!」

会場には笑い声が響く。

恐竜警察「恐竜警察だ!動くな!カタクリバラ・ヨシミ博士をパキケファロサウルスに対する侮辱の罪で現行犯逮捕するッ!!」

カタクリバラ博士「……は?」

【裁判所・第1控室】

マヨイ「ねぇ、ナルホドくん……恐竜ってさ、ハゲって言われたら、気にするのかなぁ?」

ナルホド「……どうだろうね。まあ、そもそも恐竜に毛があったかどうかも議論になるらしいし。」

マヨイ「うちのアパトサウルスちゃんだったら、気にしないと思うけどなぁ。だってあの子、首が長いことにすっごく誇り持ってるし!」

ナルホド「マヨイちゃんのアパトサウルスって……想像上のペットじゃないよね?」

マヨイ「ううん、心の中で飼ってるの! だってかわいいもん! ドシーン!って歩く感じとか、こう……どーんと構えてるとことか!」

カタクリバラ「……恐竜、お好きなんですね。」

マヨイ「うん! でも私は、見た目とかじゃなくて、“恐竜らしさ”ってとこが好きなんだよね。ハゲてても、ツルツルでも、カッコよければいいじゃんって!」

カタクリバラ「私……恐竜が好きです。本当に。でも……悪口を言うつもりなんてなかったんです。ただ、あの硬いドーム頭……僕には、なんだか“人間味”を感じてしまって……。面白く伝えるつもりが、侮辱になっていたなんて……」

ナルホド「だから僕たちがいるんです。誤解なら解くし、罪に問われたなら一緒に償い方も考えます。でも一番大事なのは……真実です。」

マヨイ「うん、がんばって、ナルホドくん! アパトサウルスも、天国から見守ってるよ!」

ナルホド(軽く頷いて)「うん。たとえ恐竜相手でも、真実は見逃さない。」

【地方裁判所 第1法廷】

カンッカンッ!

サイバンチョ「これより、被告人カタクリバラ・ヨシミの裁判を始めます!」

ミツルギ「検察側、準備完了しております。」

ナルホド「弁護側、準備完了しております。」

ナルホド(……たしかに、ちょっと言い方は乱暴だったかもしれない。

でも“ハゲ”という言葉が、果たして“侮辱”とまで言えるのか……!)

サイバンチョ「では検察側、冒頭陳述をお願いします。」

ミツルギ「冒頭陳述をイトノコギリ刑事。

いつものように頼むぞ」

イトノコギリ「ハッ、自分、イトノコギリ刑事、ただいまより事件の概要を説明するっす!

事件が起きたのは先週金曜の午後。被告人カタクリバラ博士が、テレビ番組『知って得する化石の話』に出演中、パキケファロサウルス類について『頭頂部に毛根がない=ハゲ』と断言したっす。

そこで恐竜警察が現場に乗り込み、侮辱罪で現行犯逮捕したっす」

サイバンチョ「ふむ……事実であったとしても、それを“どう表現したか”が問題になる可能性があるということですな」

ミツルギ「いかにも。恐竜とて尊厳を持つ。

現代の法において、それはもはや議論の余地のない常識なのだ。

そもそもハゲを医学的に定義すると『もう毛が生えてこなくなった毛根、あるいは消滅してしまった毛根が、頭皮のほとんどを占める状態』であると考えられる。

パキケファロサウルスの頭頂部にはそもそも毛根そのものがない。すなわち人間のハゲとは根本的に異なる状態である。

ハゲでない者をハゲ呼ばわりするのは完全な侮辱罪に該当する!」

ナルホド(ミツルギのヤツ、いきなり畳み掛けて来たな…ここは待ったをかけないと…!)

待った!!

ナルホド「検察側の主張、確かにごもっともです!ですが…!」

喰らえッ!!

バシィン!

法廷記録 : 片栗原の出演番組・発言記録。

ナルホド「問題の発言をもう一度、正確に確認してください!」

『パキケファロサウルスは完全にハゲです!

頭頂骨がドーム状に盛り上がり、見ての通りまるでツルッパゲです!』

ナルホド「確かに“ハゲ”という言葉を使っています。ですが、それは――比喩表現ですッ!!

学術的な場で“ハゲ”という言葉が使われたのではなく、バラエティ番組内における視聴者向けの“形態的な比喩”です!

検察側は“医学的なハゲ”を定義していますが、カタクリバラ氏が問題の発言で述べた“ハゲ”とは、あくまで“見た目の印象”に過ぎません!

実際、“毛根がない=ハゲではない”というなら――イルカやカエルもハゲとは言えないことになります!」

マヨイちゃん「……イルカ、ツルツルだよね。ハゲじゃないんだ……」(小声)

ナルホド「つまり、今回の発言は…“名誉毀損”ではなく、“形質上のたとえ”ですッ!!」

 

サイバンチョ「ふ〜む……“骨質ドーム=ハゲ”という表現が、どこまで侮辱に値するか……これは、難しい問題ですな……」

異議あり!!

ミツルギ検事「……弁護人、まことに滑稽だな」

指をかっこよくチッチッチと振る。

ミツルギ「たしかに、“ハゲ”という言葉には複数の意味がある。だが、それは人間社会においての話だ。

恐竜に対する適用には慎重さが求められる!

そもそも、弁護人は“バラエティ番組内の比喩”だから無罪であると言うが、それは“笑いを取るためなら、どんな侮辱も許される”と言っているに等しい!」

バッと書類を掲げる。

ミツルギ「“イルカもハゲです”――くだらん詭弁だ。イルカの皮膚はツルツルだが、ツルツルという名で呼ばれることに何の歴史的圧力もない!

だが、“ハゲ”という語には――人間社会における明確な侮蔑の歴史がある!

視聴者が“ハゲ”と聞いて想起するのは、進化した頭骨の形態ではなく、“薄毛に対する嘲笑”だ!!

弁護人がどれだけ語ろうとも、

“ハゲ”という単語に内包された社会的暴力性を否定することはできない!それが、パキケファロサウルスという絶滅種に向けられたとしても!

“他者を低く扱う意図”がそこに含まれる限り――それは侮辱に他ならないッ!!」

サイバンチョ「む、むう……“文脈によって意味が変わる”とはいえ……“ハゲ”という言葉には確かに微妙な感情の引っかかりがありますな……」

ナルホド(くっ……“言葉の社会的重み”そのものを突いてきた!これは……“真実性”だけじゃ覆せない……!)

マヨイちゃん「ナルホドくん、どうする?このままだと負けちゃうよ。」

待った!!

ナルホド「……裁判長、あなたは“ハゲ”ですか?」

ざわざわ。

サイバンチョ「……な、なにを言うのですか!突然!?」

頭を手でさわりながら狼狽。

マヨイちゃん「なるほどくん!?それはアウトじゃない!?」

ナルホド「大丈夫。ちゃんと“真面目に”いくから」

ナルホド「裁判長、ご気分を害されたならスイマセン。ですが、まさに今それこそが、ボクが言いたかったことなんです。

“ハゲ”という言葉に反応してしまう――それは、この言葉が単なる状態の説明を超えた、文化的な“レッテル”として作用しているからです!

ですが、その“レッテル”が常に“悪意ある侮辱”だと決めつけるのは、言葉に対して過剰な過敏性を許す社会の病理ではありませんか!?」

\喰らえッ!!/

法廷記録を掲げる。

ナルホド「実際、“ハゲ”という言葉はさまざまな文脈で中立的・肯定的にも使われています!」

「ハゲワシ」:威厳ある猛禽類。

「ハゲ山」:ただの地形用語。

ナルホド「つまり、“ハゲ”という言葉そのものが侮辱なのではなく――“どう使われたか”と“どう受け取ったか”にこそ判断の余地があるんです!

問題の発言は、恐竜の形態をユーモラスに紹介する文脈の中で行われたものであり、誰かを貶めたり、パキケファロサウルスの社会的評価を貶めようとした意図は一切ない!

それを“侮辱だ”と断じてしまうなら――“つるんとしてる”“つやつやしてる”という表現すら、侮辱扱いされる可能性がある!

“ハゲ”という言葉が、ここまで扱いにくくなった原因は、言葉そのものではなく“受け取る側の社会”にあるのではないでしょうか!?」

サイバンチョ「……たしかに、“ハゲ”という言葉には……いや、わ、私のことではなく……ふむ……言葉と文化……うむ……」(手で額を覆いながら)

異議あり!!

ミツルギ「弁護人……君の議論は、理屈としては見事だ。だが――この法廷で問われるべきは、論理の洗練ではない。

“傷ついた者が、実際に存在する”という事実から目を背けてはならない!!」

法廷に重い沈黙が落ちる。

ミツルギ「たとえ意図がなかったとしても……そしてその言葉が“文化的に中立”であったとしても……受け手が侮辱と感じたなら、それは立派な加害である!

それが人間であれ、古生物であれ、その“尊厳”が踏みにじられたと感じた瞬間――この法は、黙っていてはならないのだ!!」

サイバンチョ「……ミツルギ検事の言う通り……侮辱罪が問うのは“意図”ではなく、“結果”です……」

ミツルギ「ましてや今回の発言は、科学番組という公共性の高いメディアで、不特定多数に向けて発信されたものだ。

被告人カタクリバラ氏が“面白おかしく”と言い訳したとしても、その発言が“パキケファロサウルスの尊厳”を深く傷つけたことは疑いようがない!!

被告人の行為は、紛れもない侮辱罪だ。」

異議あり!!

ナルホド (確かにミツルギの言ってることは正しい……ように聞こえる……!)

ナルホド「ですが……そもそもこの裁判ってやる意味あるんですか?」

ミツルギ「……なに?」

マヨイ「……え?」

サイバンチョ「…….は?」

ナルホド「“被害者”って、どこにいるんですか?

だって! パキケファロサウルスって――とっくに絶滅してるじゃないですか!!」

ざわざわ。

ナルホド「絶滅した生物には、もう感情も権利もない。

傷ついた“ように思える”のは、現代の私たち人間が勝手に投影してるだけなんですよ!

これは“パキケファロサウルスをバカにされた”事件じゃない!

“恐竜ファンの感情がちょっともやっとした”程度の話じゃないですか!

これを侮辱罪にしてしまったら――すべてのフィクションや研究解釈が、誰かの主観で“罪”にされてしまう!

そんな社会、あなたは耐えられますか!?

検察側は“結果がすべて”と言いましたが、その“結果”は、そもそも被害者が実在していることが前提だ!!

もしこの事件の被害者が“パキケファロサウルス本人”であるというなら――その恐竜、連れてきてください!!」

がやがや。

ナルホド「……できないですよね? だって、もういないんですから!これは冤罪です!

感情の代弁を装った、化石への不当な投影です!!

検察側が守ろうとしているのは、法ではなく“架空のプライド”にすぎないんですよ!」

そのとき、サイバンチョの頭がピカリと光る。

サイバンチョ「うーむ……たしかに、絶滅種に対する侮辱が、侮辱罪に当たるかどうか……これは……難しい問題ですね……」(頭を撫でながら)

異議ありッ!!

ミツルギ「確かに……パキケファロサウルスは、今この世には存在しない。だが!それは“肉体として”の話にすぎん!

よく聞くがいい、成歩堂。

名誉とは、生きている者だけの特権ではない。

例えば戦没者への侮辱。先人への嘲笑。文化財の冒涜……

いずれも法的・社会的に厳しく取り扱われている!

つまりこれは、“絶滅した恐竜に対する侮辱”というより――

恐竜文化に根ざした知的財産、そして歴史的存在に対する名誉毀損なのだ!」

ガヤガヤ

ミツルギ「そして本件では、被告人・カタクリバラ氏が公共の場で、明らかに侮蔑的な口調で“ハゲ”呼ばわりした。

それは、“意図的な嘲弄”であった!

このような発言がまかり通るなら今後、学習、娯楽、その他あらゆる場面において、古生物界隈は

“ハゲ” “ダサい” “キモい”といった言葉が飛び交うようになるだろう!」

鋭く指を差す。

ミツルギ「成歩堂、お前は“もういない存在だから傷つかない”と主張したが、

それはまるで――“死者を冒涜しても構わない”という論理と同じだッ!!

私が守りたいのは、骨ではない。

骨に心を重ねる者たちの敬意であり、矜持である!!」

サイバンチョ「……!!」(無言で己の頭を撫でる)

ミツルギ「そして裁判長……

 あなたも当事者なのではありませんか?

 この“ハゲ”という言葉に、何度心を抉られてきたことか……!!」

サイバンチョ「……そ、それは……ぐ、ぐぬぬ……!」

ナルホド (ミツルギめ、裁判長のハゲ頭をうまく利用して検察側の有利に審議を運ぼうとしているな…!)

ナルホド「……そ、それでも! ぼくは……負けない!」

額に汗をにじませながら、かろうじて立ち上がる。

ナルホド「ミツルギ検事の言っていることは……正論です!

正論すぎて、たしかにぐうの音も出ない……!

……でも! 正論だけで人を断罪していいなら、

この法廷はもう……人間のための場所じゃなくなるッ!

ミツルギ検事の主張は要するにこう言っています。“恐竜を故人と同じように扱うべきだ”

でも、それは論理的に破綻しています!

なぜなら――恐竜は人間じゃないからです!」

サイバンチョ「当たり前ですな。」

ナルホド「故人とは、法的には“かつて生きていた人間”のこと。つまり、“人権の主体であった者”なんです!

でも、恐竜は違う!彼らは“かつて生きていた動物”であって、“人権の主体ではなかった”!

いくら進化的に優れていたとしても、彼らは――“法的には人間ではない”!

当然、“人権”も、“名誉権”も、“侮辱罪”も――成立しません!

そして、刑法231条が規定する侮辱罪の保護法益は“社会的名誉”、その主体は“自然人”!

恐竜の“名誉”は、法的には守られないんです!」

サイバンチョ「……なるほど……」

ナルホド「ですから、被告人の“ハゲ発言”がたとえ不適切だったとしても、それは“社会通念上の問題”であって、刑事責任を問うことはできません!」

マヨイ「ナルホドくん……なんか今日、すごく法学部っぽい…!」

サイバンチョ「た、確かに……!」

(ざわつく傍聴席)

ミツルギ「ふん……そう来るか。だが、弁護人――一つ、見落としているな。」

ナルホド「なにっ……?」

ミツルギ「本件で傷ついたのは、“絶滅した恐竜”ではない。“恐竜を愛する現代の人々”なのだ!」

バンッ!と証拠の束を机に叩きつける。

ミツルギ「見たまえ!SNSでの投稿、教育委員会への苦情メール、そして“恐竜展”に参加していた親子のアンケート調査――

そのどれもが、『あんな発言、子どもに聞かせたくなかった』『パキケファロサウルス好きの気持ちを踏みにじられた』という内容だった!」

サイバンチョ「むう……なるほど、つまり、恐竜そのものではなく、恐竜を愛する人々の感情が傷つけられたと……」

ミツルギ「そう、まさに侮辱の対象は、“特定個人”ではなく“特定の属性・趣味を持つ人々”!

その集合的な価値観を嘲笑・蔑視することもまた、侮辱罪の一類型として議論されている!

これはいわば“恐竜ファンに対する軽視と侮辱”なのだ!」

ナルホド「……!」

ミツルギ「弁護人、“名誉”という言葉には“社会的評価”が含まれる。

本件で毀損されたのは“恐竜に愛情を注ぐ者たち”の誇りそのもの――

これは“群体名誉”の毀損といって差し支えない!!」

サイバンチョ「な、なるほど……“個人の名誉”ではなく、“集団の名誉”……。

こういう例も、あるのですか?」

ナルホド(たしかに、「オタク全体」や「出身地域への誹謗」なんかが問題になるケースも……!)

ミツルギ「ゆえに私は問う――“ハゲ恐竜”などという言葉で、何を笑いものにしたのか?

科学の扉を叩いた少年少女たちの、真剣なまなざしを――被告は、あざけったのではないのか!!」

マヨイ「……ナルホドくん……ミツルギ検事、今、子どもの味方って感じで超輝いてるよ……!」(小声)

傍聴席は沈黙、ミツルギの提出した「恐竜ファン傷心の証拠」が静かに裁判長の机に置かれている。

ミツルギ「……よって、これは明らかな“群体侮辱”である。被告の無責任な発言は、恐竜を愛する多くの人々を傷つけたのだ!」

サイバンチョ「むむむ……確かに、ここまで証拠がそろっていては、看過できませんな……!」

ナルホドくん、冷や汗をかきながら目を伏せる。

マヨイ「ねえ、ナルホドくん……もしかして、負けちゃうの……?」

ナルホド「……いや。まだ……まだだ!」

バンッ!

異議ありッ!!

ナルホド「確かに……被告・カタクリバラ氏の“ハゲ恐竜”という発言は、言葉としては軽率だったかもしれません。

でもッ!その発言の意図を、誰一人として正確に見ていないんです!」

ミツルギ「……また、苦し紛れの屁理屈か?」

ナルホド「違います!!

被告は……恐竜が大好きなんです!

彼は子どもたちに恐竜の面白さを知ってもらいたい。そのために、身振り手振りで、ユーモラスに、親しみやすく伝えようとした――

それが、“ハゲ”だっただけです!」

ざわざわ。

ナルホド「恐竜の魅力は大昔に存在していたという事だけじゃない。長い首、鋭い爪、骨の鎧――

そういう“特徴”をどう伝えれば、小学生たちの心に残るか……被告は、必死に考えたんです!

ふざけたかったんじゃない!恐竜で人を笑顔にしたかったんです!

“愛”をもって、恐竜のことを伝えようとしたんです!!

そんな人間が……本気で恐竜を侮辱するはずが、ないじゃないですか!!」

ピタッと静まり返る法廷。

サイバンチョ「む……むむむ……!」

ナルホド「もしあの時、“ハゲ”という言葉に棘があったとするなら、それは伝え方の問題であって――

“恐竜愛”がないからではない!!」

マヨイ「ナルホドくん……!」

サイバンチョ「ふむ……では被告人、カタクリバラさん。

あなたの口から、“恐竜への愛”を聞かせてもらえますか?」

カタクリバラ、静かに立ち上がり、証言台へ。

カタクリバラ「はい……私は、恐竜が、好きです。

具体的には中生代後期白亜紀、特に北アメリカ大陸に生息していた角竜類の多様性に興味があります。

トリケラトプスは角竜類の代表格であり、北アメリカ白亜紀末期を代表する大型草食恐竜。

額に2本、鼻に1本の角を持ち、最大で9メートルを超える個体も知られています」

傍聴席から少し感心の声。

カタクリバラ「よく“武器としての角”が注目されますが、それ以上に注目すべきはフリルです。

このフリルは血管が通っていたとされ、体温調節や仲間とのコミュニケーション手段だった可能性もあります」

サイバンチョ「ふむふむ、なるほど……」

カタクリバラ「また、トリケラトプスの歯列は交換可能なデンタルバッテリー構造であり、

硬い植物を効率的に咀嚼するのに適していました。これは現生哺乳類に勝るとも劣らぬ高度な咀嚼能力です。」

異議あり!!

ミツルギ検事「……確かに、被告は豊富な知識を持っている。それを語る様子からは、少なくとも“恐竜研究者としての情熱”は感じた。だが――!

(バンッと机を叩く)

その言葉のどこに、“愛”があったのかッ!!」

ざわざわ。

ミツルギ検事「愛とは、心でつながること。

幼い子供が“恐竜すごい!”と目を輝かせる――それも愛。

親子で博物館に行き、“これはなんだろうね”と語り合う――それも愛。

しかし被告の語ったのは、“専門的な体の構造の話”ばかり。

それはまるで、機械のパーツを説明しているだけではないか?

これは“愛”ではなく、“学問的優越の誇示”だ。

よって、弁護人の“被告が恐竜を愛していたから侮辱の意図はなかった”という主張は、成立しないッ!」

サイバンチョ「ううむ……確かに、知識と愛は、同じではない…………弁護人。いまの検察側の主張に対して異議はありませんか?」

ナルホド「……い、今……考えています……」

焦りと苦悩の表情。カタクリバラの証言から“愛”を導き出す糸口が見つからない。

ミツルギ検事「しかも……トリケラトプスの話しかしていないではないかッ!!

問われているのは“恐竜全体への関心”などという曖昧な情熱ではない!

“パキケファロサウルスへの愛”があったかどうか──それが今の論点なのだ!!」

証言台のカタクリバラが一瞬たじろぐ。

ミツルギ検事「にもかかわらず、被告が語ったのは終始“トリケラトプス”についてだけ!

それはつまり……パキケファロサウルスを侮辱したという認識すら持っていない証拠!!」

机をバンッ!

ミツルギ検事「“知らなかった”“愛していたつもりだった”などという逃げ口上は、

“被害者の顔も見たことがない加害者”と何も変わらぬ!!」

ミツルギ検事の追及により、カタクリバラが沈黙し、法廷が静まりかえる。

サイバンチョ「……弁護人、特に異議がないようでしたらこのまま判決を言い渡しますが?」

しばしの沈黙。ナルホドが汗をぬぐいながら立ち上がる。

ナルホド「……異議あり!」

ミツルギ「……ふん。何を今さら。」

ナルホド「カタクリバラさんが“トリケラトプスの話しかしていない”のは、単に彼の恐竜知識の偏り……だけじゃない!」

カタクリバラが目を見開く。

ナルホド「彼は――パキケファロサウルスに強く共感していたんです!」

サイバンチョ「共感……とな?」

ナルホド「……だって、彼自身が――」

言いよどみながらも、カタクリバラのカツラを奪い取って叫ぶ。

ナルホド「彼自身が、“ハゲ”なんです!!」

ざわざわ。

ナルホド「丸くて、つるんとしてて、でも、本人はそれを気にしてないフリをしてきた!だけど本当はずっと、人知れず悩んでいたんだ!!だからこそ、パキケファロサウルスに惹かれた。なぜならこの恐竜は“最初から毛がない”、すなわち“堂々とした丸ハゲ”だったからです!」

サイバンチョが驚きのあまりツルンと頭をなでる。

ナルホド「彼は、パキケファロサウルスの“ありのままの姿”に勇気をもらっていた!ハゲを揶揄したんじゃない、愛していたんです……!」

カタクリバラ「……そ、そんな……バラすなんて……!」

うつむき、頭頂部を手で押さえる。

ナルホド「すみません……でも、あなたが“パキケファロサウルス”に抱いていた気持ちは、本物なんですよね?」

カタクリバラ、ゆっくりとうなずく。

カタクリバラ「あぁ……彼らはね……堂々としてた。ツルンとしてて、かっこよかったんだよ。ぼくは……あんなふうになりたかったんだ……!」

ナルホド「彼は“愛していた”んです。“嘲った”のではない。“ハゲ”という言葉も、恐竜を貶める意図ではなく、親しみを込めての発言だったんです!」

ミツルギ検事「なにいいいいいぃ〜!?」

彼もまた、うっすらと額に手をやる。

サイバンチョ「……弁護人の主張、納得できる部分があります。確かに、被告の発言は軽率であったかもしれませんが、悪意はなかった……むしろ、深い共感と愛情に基づいていた――そう判断します」

法槌を振り下ろす。

サイバンチョ「被告人カタクリバラに判決を言い渡します」

ざわざわ。

サイバンチョ「本法廷はこれにて閉廷」

【地方裁判所 第1控室】

カタクリバラ「……ありがとう、成歩堂さん……ぼく……初めて救われた気がします……!」

マヨイ「やったね、ナルホドくん!!」

ナルホド「今回もギリギリだったけどね。カタクリバラさんが、その…頭頂部に毛が生えていたらどうなっていたことか。」

マヨイ「うーん……たしかに、ツルっとしてたから説得力あったよねぇ。あれでモジャモジャだったら、こっちの主張がハゲしく説得力なくなってたかも〜!」

カタクリバラ「……やめてください……」

マヨイ「あ、ごめんなさい…!でも、カタクリバラさんが恐竜を本当に好きってことは、みんなに伝わったと思うよ!」

カタクリバラ「……ぼく、これからはもっと誠実に発信していきます。“面白いこと”よりも、“まっすぐなこと”を」

ナルホド「うん。それが一番だと思います」

カタクリバラ、そっと頷く。

― 恐竜は、もうこの世界にはいない。

記録と想像と、少しの骨だけが残ってる。

それでも、誰かが語ることで、彼らは心の中に生き続ける。

時に大きすぎて、時に奇妙で、時に強くて美しい姿で。

そう。

恐竜を語る人の“まなざし”が、彼らの“姿”を決めるんだ。

今回の事件が教えてくれたのは――

恐竜のことを語るとき、僕らは、自分のことも語っているってことだ。

― 『逆転の恐竜』 完 ―