東京ディズニーランドのジャングルクルーズの船長が2匹のワニについて「彼らはソーセージが大好物なんですよ。双子だけに」って言っててかなり面白かったけど僕しか笑ってなかった。ケラトプスユウタです。
2025年11月26日から2026年3月1日まで公開されていた国立科学博物館の企画展ワニ(以下「ワニ展」)のレポートをやっていきたいと思います。
開催概要は公式サイトをご堪能ください。

シャムワニ液浸標本
キャプションではこの生き物についてではなく、液浸標本の作り方について説明されています。


お触り体験の展示。
ビニールに包まれた液浸標本の背中を触れました。これは特に人気が高かったようです。
「かみつき注意」とありますが、科博のジョークで、多分生きてないと思います(当たり前)。
今じゃ他の来館者によるかみつきの方が要注意です。

シャムワニ
壁の皮革と台の骨格標本は両取り(同一個体)で匠の技が光っています。
キャプションには皮骨は軟組織に埋もれているので皮革側に取り残されている事が説明されています。

さすが主竜類 Archosauria なので恐竜類 Dinosauria との共通点も少なからずありますが、仙椎が2個しかなくて癒合もしてないあたりは全然恐竜類じゃないですね。

左からコモドオオトカゲ Varanus komodoensis、セマルハコガメ、イリエワニ、シソチョウ(始祖鳥) Archaeopteryx(ベルリン標本)、コウノトリ。
同館の常設の『系統広場』という展示のクラドグラムでは鳥類 Aves が無理やり爬虫類 Reprilia じゃないことにされているせいで爬虫類が側系統群になっているのですが、こちらでは素直に単系統群としての爬虫類のクラドグラムが描かれていました。


「ワニとコモドオオトカゲ」よりも「ワニとコウノトリ」の方が系統的に近いと言いたげな展示でした。

手前からコビトカイマン、ブラジルカイマン、クチヒロカイマン、メガネカイマン。
カイマンは中南米のアリゲーターで腹部にも装甲があり、概して小型なのが特徴です。
たぶん腹部の装甲にコストがかかるのでそれほど大きくなれないんでしょうね。
中南米にはジャガーやサギ類などワニすら捕食する動物がいるので、特に装甲は幼体の時に役に立ちそうです。

セベクワニ Crocodylus suchus
「ワニの中のワニ」みたいな学名のくせに聞いた事ない和名だったので検索したところ、以下のような、恐竜のような、すったもんだがあったそうです。
本種は、1807年に Saint-Hilaire という研究者によって原記載されました。そのとき Saint-Hilaire は、古代エジプトのミイラにされたワニの頭骨などを見て、ナイルワニとは違うと考えたそうです。しかしその後、この名前はナイルワニのシノニムとして扱われ、無効名になりました。ところが2000年ごろから分子系統解析や形質の理解が発展し、ミイラもふくめてやはり別の種類だとわかり、この名前はふたたび有効な種として復活したとのこと。
つまりこのセベクワニは、一度は別種として発見されたのに、長いあいだナイルワニにまとめられ、最近になってもう一度独立した種と認められた存在だそうです。
なおニシアフリカワニとも言うそうです。
もう一つ名前ネタで言うと、セベクワニという学名は絶滅したワニ形類 Crocodylomorpha のセベコスクス類 Sebecosuchia と紛らわしいです。

アメリカアリゲーター(ミシシッピワニ) Alligator mississippiensis
アリゲーター属の数少ない生き残りのうちの一種。
個人的には「保護成功の象徴」です。一度は絶滅危惧種に指定されましたが、現在のIUCNの保全状況評価はLC(低懸念)で商業利用も容認されるレベルです。このレベルで回復した大型肉食動物はちょっと思いつきません。
絶滅危惧は必ずしも不可逆ではなく、専門家指導のもと適切に保全すれば回復の希望はあるという事を教えてくれます。

アメリカワニ Crocodylus acutus
アメリカアリゲーターとアメリカワニが別物って頭にきますね。
アメリカアリゲーターとアメリカワニ(クロコダイル)はどちらもフロリダなどに分布する大型ワニですが、前者は内陸・淡水、後者は沿岸・汽水と棲み分けられているそうですが、フロリダならどこでも見られるっというアリゲーターと違って、クロコダイルは見れたらちょっとラッキーらしいです。

いやー!生物地理ってただ「どこにいるか」を示すだけでなく、「なぜそこにはいるのに、なぜそこにはいないのか」という進化学と環境学と地理学を越境する分野じゃないですか!
現生種の分布データにこのケッキアワニのような化石種の情報をぶちこむと、彼らがどのように放散していったのかというダイナミックな物語に変わる。地図がそのまま進化の痕跡になる点がとっても面白いです!

やっぱりマレーガビアルとインドガビアルが姉妹群ということに目が行きますが、これについては後で詳しく紹介されていました。
属でいうと9もあって思っていたよりだいぶ多かったのも印象的でした。これたぶん最近整理されて属数が増えたんですよね?前から?

ニシアフリカコガタワニ Osteolaemus tetraspis 液浸標本
コガタワニ属というのがあるんですね。
後頭部に大きな皮骨 Scute が4つあるらしく、それが「4枚の盾」を意味する種小名の由来だそうです。

フクスクチナガワニ Mecistops leptorhynchus
ガビアルのようにやや吻が細長いじゃないですか。でもさっきのクラドグラムによるとガビアル科とクロコダイル科が分岐した後に派生した種なんですよ。基盤的位置には近いのでクロコダイル科の中では比較的ガビアル科に近縁な位置には置かれているのですが、この事からするとクロコダイル科は基盤的にはガビアルのように細長い吻をもっており、現代でそうなっていないクロコダイル科は二次的に幅広い吻に進化したのではないかと考えるのが最節約的かと思うのですがいかがでしょう?
まあこれだけだとクチナガワニ属とガビアル類が並行進化で細長い吻を獲得した可能性も考えられるのですが。

ニューギニアワニ Crocodylus novaguineae
剥製の作り方の関係なのか全体的にむちむちしていました。

ギャロップするワニとして所十三さんのDINO² で紹介されていた事で個人的に有名な、ジョンストンワニ(オーストラリアワニ) Crocodylus johnstoni
たしかに比較的軽快そうではあります。
壁紙の風景写真が臨場感抜群です。

ヨウスコウワニ(ヨウスコウアリゲーター) Alligator sinensis
口を閉じても上顎の歯が露出していてあざとい顔に見えます。
名前でわかるとおり中国のワニですが、アメリカアリゲーターと共に2種しかいない現生アリゲーター属のうちの1種。
アメリカワニと違って保全はうまくいっておらず、IUCNレッドリストではCR(絶滅寸前)です。本種が絶滅した場合、アリゲーター属はアメリカアリゲーター1種のみになってしまい大変まずいことです。

シャムワニ Crocodylus siamensis(上段)とマレーガビアル Tomistoma schlegelii
オオサンショウウオ Andrias japonicus やバラタナゴ Rhodeus ocellatus のように、シャムワニは野生個体の多くが交雑個体と聞きました。
本来は地域ごとに違う特徴を持っていた生き物たちが、我々の介入によって無理やり混ぜられている。その結果、自然が時間をかけて作ってきたバリエーションが消され、均一化されていく。交雑、それは自然の豊かさを変えてしまう、見えにくい破壊行為なのです。

「形態 vs DNA」という対立構造を明示した上、図で旧説と新説を並置しているのがわかりやすいですね。

マレーガビアルとインドガビアルってシルエット的には似ているので、分子系統解析の結果の方が直感的という珍しいパターンなんですよね。

インドガビアル 頭骨
恐竜類のスコミムス Suchomimus がこれに似てるという事になっていますが、ただ長いというだけで、抜本的にはそんなに似てないと思います。個人的にはチャンプソサウルス Champsosaurus にそっくりだと思います。

たしか実物大だったはず。この作品は京都精華大学で展示されていた時にも観たことがあります。現物は尾の先まで全身が描かれています。
鱗の密度変化、皮膚のたるみや重力のかかり方まで完全に模写されていて圧倒的です。特に頭部の低さが生む動かない強さの表現は見事です。

イリエワニの巨大な頭骨。まあ一部の恐竜類と比べるとそれほど大きくはないですが、現生爬虫類では最大級のシロモノです。
銃撃された個体らしく、壁側の小さい鏡は右側面の銃創が見えるようになっていました。気分が悪いので写真は撮りませんでした。

歯は歯根部は短そうですが、歯冠部が太く大きく、強暴な力に晒される構造であることがわかります。恐い!

アメリカアリゲーターの幼体の全身骨格
小さくても頭がワニの形ですね。
この標本はガストラリア(腹骨)の配置も再現されています。

クチヒロカイマンの鱗板骨
こんなに小さくても体温調節に役立っていたと考えられているという事で、より面積の大きな剣竜類 Stegosauria のプレートなんてますます体温調節に使われていたこと請け合いだろうという根拠にも使われています(Farlow et. al., 2010)。
でもワニの鱗板骨って剣竜類のプレートと違って背面にソーラーパネルのように配置されているので、一個一個は小さくても広い背中をまんべんなく覆っている事が、体温を上げる意味では剣竜類のプレートよりも断然効率的に見えます。つまりワニの鱗板骨と剣竜類のプレートは配置パターンが全然違うので比較するには、面積以外にもいろんな要素を計算に入れないとだめだろうと思います。

このキャプションでは水生適応を機能ごとに分解しているのが良いですね。鼻孔の位置、二次口蓋、外皮感覚器、神経系といろいろな要素に言及しているにも関わらず、読み手に理解させる気のある展示です。
またCT画像の利用で、本来見えない構造を可視化 しかも色分けで整理されているのも良いですね。
ちなみに画像作成は我孫子市鳥の博物館で恐竜類の頭骨の血管神経孔を調べてクチバシについて研究されている脇水先生です。

ナイルワニ Crocodylus niloticus 頭骨の断面(樹脂包埋標本)
二次口蓋がわかりやすい標本です。
二次口蓋は哺乳類にも特徴的な構造だもんで、呼吸と摂食を分離するためのしくみが発達=酸素の要求量が大きい=高代謝というロジックで、代謝と結び付けられた事もあり、二次口蓋の発達の度合いから恐竜類の代謝を知ろうとする試みもあった(Rey et. al., 2017)のですが、外温性であるワニでもよく発達している事から、代謝と二次口蓋は関係ないとされるのが普通かと思いますね。

シャムワニの舌基弁
舌骨と連動する、喉の軟組織の蓋。
はじめて見ました。これで口を開けた時の水の侵入を調節できるわけですね。舌骨の化石の形質から舌基弁の有無や発達度合いを知ることができれば、化石ワニ類の水棲適応の程度も推し知ることができますか?(きくな)

楕円形で典型的な獣脚類の卵と区別しにくい気がします。

孵化するクチヒロカイマン。
映画などに出てきそうな、ランダムな不特定の恐竜の赤ちゃんにも見えます。

岩手県久慈市の白亜系で見つかったパラリゲーター科を含む新鰐類化石。
詳しくないですが、日本の中生代ワニでファミリー(科)まで同定されているのはかなり少ないはずです。白亜紀型ワニから現代型ワニへの進化の移行段階を示す過渡的な存在のようです。


山階鳥類研究所所蔵のむかしのワニの絵×2
「性暴悪なり故に人畜を害なす事多し」とか言われてそうな画風。

龍絵巻物なるものに記録されたワニ
こういう文化財系も科博の所蔵物であるんですね。
胴体の鱗の配列、四肢の付き方、左右に扁平な尾なんかはちゃんと観て描いてる感じがします。龍と言いつつ想像の龍ではなく、実物観察ベースです。
特に右端の個体はクロコダイル類に見えます。

大分県産のトヨタマフィメイア cf. Toyotamaphimeia と考えられる歯の化石
トヨタマフィメイア(マチカネワニ T. machikanensis)といえば大阪ですが、九州にもいた可能性があるんですね。トヨタマフィメイアは台湾からも出ているのでいかにも必然ではありますが。


大分産、ヨウスコウワニ Alligator cf. sinensis のものと考えられる化石
この化石は、現在では中国にしかいないヨウスコウワニが、約300万年前には九州にもいたことを示すものです。
地味な展示ですが、鮮新世の日本の気候や動物相、その変遷を知るヒントとなる貴重な資料です。こういう小さな化石から、環境の変遷という大きな変化が見えてくるのが面白いところだと思います。



和名に「ワニ」が関係する動物の液浸標本シリーズ
左からチュウゴクワニトカゲ Shinisaurus crocodilurus, カイマントカゲ Dracaena guianensis, ワニゴチ Inegocia ochiaii, ワニグチツノザメ Oxynotus japonicus
特にチュウゴクワニトカゲは半水棲で背中の皮骨、扁平な尾などワニとの収斂が面白いです。


生きているワニガメは泥や苔がついていてなかなか野生味溢れる外見をしていますが、剥製はきれいに整えられているため、より親しみやすく、この標本でいうと母性本能をくすぐる表情をしていますね。

ワニガイ Dendostrea folium
ワニの名を借りているものは、大抵歯か鱗のどちらかを彷彿とさせるものですね。
***
それから2月13日に小伝馬町のギャラリーキッチンKIWIで開催された『大人の科学バー・ワニ編 vol.1』にも侵入させていただきました。

オーストラリアやニューギニアで20年イリエワニを中心にワニ類そ研究されている福田雄介先生による貴重な写真を使ったトークショーと、ワニ類のデフォルメキャラクターを毎日描かれているワニ作家の雨宮ひかる先生によるライブドローイングという内容でした。
福田先生はワニ展のキャプション、動画、写真などを提供・作成された中心的な関係者のひとりです。ちなみにキービジュアルのイリエワニの元写真を撮影されたのも福田先生で、いくつもの候補写真の中の唯一の飼育個体の写真らしいのですが、満場一致であれになったそうです。
雨宮先生もワニ展のキャプションのワニキャラの作者です。
いろいろなトピックがあったのですが、印象的なのは以下の話題:
- オスのイリエワニが子育てに参加するという事実(従来メスしか子育てをしないと思われていたそう)
- イリエワニは幼体の時の模様は成長すると無くなるので成体の外見での識別には尾を傷つける必要があるとされていたが、成長しても幼体の時の模様は残るという話。
- オーストラリアのイリエワニとニューギニアのイリエワニは目つきが違って、ニューギニアのは目がガンギマっている。
- ニューギニアのシャーマンだけが現地のワニに触る事が許されていて、彼らはイリエワニを捕まえて特定の池に閉じ込めて神にしたてあげ、3年周期で交代させるが、神の選定基準は秘密。
- ニューギニアで家畜や人を襲ったイリエワニは囚人として劣悪な環境のところに収監される。
- ニューギニアの先住民はワニを先祖だと信じており、彼らは人を襲わないと信じている。人を襲うワニはオーストラリアから海を超えて来た個体だと信じており現地の新聞にもそう掲載されるが、DNAを調べたところニューギニアにオーストラリアからワニが来ている可能性は低いことが示唆されている。この辺りの話はワニ展のキャプションでも触れられていましたね。

ライブドローイングのイリエワニ。
福田先生がニューギニアで撮られた、神聖視されている個体の写真からスケッチされた物。
さすがデフォルメが巧みな方はその基盤である写実的な描画も卓越しているものです。
線の強弱の使い分けがすごくて、光の当たる面と影になる面の情報が整理されています。時間制限のシビアなライブドローイングでありながら、圧倒的な存在感を持っていますね。
そして何より素晴らしいのは、イリエワニの静かな威圧感が表現されている事です。技術だけでなく、対象への理解の賜物でしょうか。

雨宮さんのポストカードに直筆サインとゆるメガネカイマンを描いて頂きました。
現生ワニ類はガビアル以外は一見するとどれも同じように見えがちなだけに、それぞれの種の違いを的確に捉え、あの画風で描き分けている雨宮先生の表現力には圧倒されます。形態の差異だけでなく、マスコットとしての存在感まで描き出している点が見事です。

福田先生のプレゼントの絵葉書。いくつか種類があったのですが、すごい重厚感の老成したオスのイリエワニが気に入りました。
***
感想いきます。
科博の企画展は常に無料でありながら、内容の密度や展示の完成度は、他施設であれば800〜1200円程度の入場料を設定しても不思議ではない水準で、毎回安心して見に行ける信頼感があります。今回のワニ展も例外ではありませんでした。
一方で、擬鰐類などの絶滅系統にももう少し踏み込んだ展示を期待していたため、その点に限っていえば期待を下回った部分もありますが、会場規模を考えれば、現生各属の代表の剥製や液浸標本がまんべんなく展示されていたばかりか、骨格、卵、水棲適応、文化的な側面の紹介など多面的であり、展示空間が限られている中で望外の充実でした。
改めて感じたのは、ワニという生物が中生代の面影を色濃く残しながら現代まで生き延びていることのアリガタさです。展示を通して、その連続性を実感できる良い機会でした。
以上です。
読んでいただきありがとうございました。
それじゃ👋
***
- Farlow, J.O., Hayashi, S. and Tattersall, G.J. (2010) ‘Internal vascularity of the dermal plates of Stegosaurus (Ornithischia, Thyreophora)’, Swiss Journal of Geosciences, 103(2), pp. 173–185.
- Rey, K., Amiot, R., Fourel, F., Abdala, F., Fluteau, F., Jalil, N.-E., Liu, J., Rubidge, B.S., Smith, R.M., Steyer, J.S., Viglietti, P.A., Wang, X. and Lécuyer, C. (2017) ‘Oxygen isotopes suggest elevated thermometabolism within multiple Permo-Triassic therapsid clades’, eLife, 6, p. e28589
