化石ハンター展 #2 そしてアウト・オブ・チベット

金属パーツのついたバインダーやリングファイルは粗大ゴミです。ケラトプスユウタです。

早速、前回の続きやっていきましょう。

1920年代、アンドリュース隊はモンゴルのエルデニン・ツォなどの始新世〜漸新世の地層を調査し、恐竜だけでなく、新生代になってから繁栄した哺乳類の化石も多数発見しました。

科博の常設展示でもお馴染みのパラケラテリウム・トランソウラリクム Paraceraterium transouralicum

図録によるとバルキテリウム・グランゲリ (グレンジャーイ) Baluchitherium grangeri(ジュニアシノニム)のホロタイプとのこと。

アンドリュース隊が見つけた時、まるで垂直に立ったまま地面に埋まっていたという伝説のあの標本なのでしょうか。

さしずめ「哺乳類版竜脚類」といった趣の動物で、最大のマンモスくらいの重量が推定されるサイ類の近縁種ってんだから驚くと共に、最大の哺乳類でもそのサイズは大型竜脚類には遠く及ばないという事実に哺乳類の限界を覚えるものです。

パラケラテリウム頭骨

アーティファクトが含まれた標本とはいえ、「ゴツいラクダ」ではなく「長大なサイ上科 Rhinocerotidae 」という事がわかりますでしょう。

パラケラテリウムの後ろ足。

四角い末節骨にもサイっぽさが垣間見えます。

エンボロテリウム・アンドレウシ(アンドリューシ) Embolotherium andrewsi

鼻骨がガーッとなっていて鼻孔もそれに伴ってガッコリとなっているわけですが、鼻腔はどんな大きさ、形でどこについていたのでしょうか?

あとこれ種内闘争に使いそうに見えるのですが、雌雄差はどうなんでしょうか?

アンドリュースたちは大動物だけでなく、小型の齧歯類の化石もちゃんと回収していました。

画像はクリケトプス Cricetops なる現生のハムスターに近縁な齧歯類の歯。ちょっと Ceratops と読み間違えそうな学名です。ゴールデンハムスターの属名が Mesocricetus だったと記憶しているのですが、“Cricetus” が少なくともハムスター的な動物の事なのでしょうね。

クリケトプスはツァガン・ノールでは最も普通に見られる化石だそうです。だったら全身骨格くらい用意できそうなものですが。

微化石と言うほど小さくはないですが、このくらい小さな化石は砂をふるいにかけて探しますよね。

ツァガノミス Tsaganomys

たぶん裏返しの頭骨のだいぶ前(吻側)の方だけの断片。ツァガノミスもツァガン・ノールでは2番目によく見つかる化石生物らしいですが、それなら(以下略)

ハダカデバネズミに近いらしいです。

アンドレウサルクス(アンドリューサルクス) Andrewsarchus

裏返しの上顎。既知の陸上肉食哺乳類の中でいちばん頭が大きいらしいです。頭が相当でかいのも目を引きますが、歯が太く頑丈そうで骨でも食べていたのかよと考えてしまいますが、普通にスカベンジャー説って提唱されてるんですかね?

アンドレウサルクス復元頭骨。下顎はアーティファクト。

アンドリュース隊の一員、グレンジャー先生が発見し、オズボーンがアンドリュースに献名した哺乳類です。この属名は「アンドリュースの支配者」とか「アンドリュースの主」というような意味なので、アンドリュース先生がこの古生物に服従する立場みたいですね。

メソニクス類 Mesonychidae やエンテロドン類 Entelodontidae あるいはクジラカバ形類 Whippomorpha とするなど、分類についてはいまだに諸説ある肉食偶蹄類。

おそらく最も奇妙な長鼻類、プラティベロドン・グランゲリ (グレンジャーイ) Platybelodon grangeri の奇妙な下顎。グレンジャーに献名された古生物多すぎじゃないですか?

同じく奇妙な上顎。

プラティベロドン頭骨

このシャベルだかスコップみたいな下顎はもっぱら泥をすくって水草を採るために使われたと説明されているように思いますが、下顎の歯にゾウ的な鼻作が対応していたであろう事を思うと、もしかしたら鼻先で掴んだ陸上植物を下顎の切歯に押し当てるなどして切断するような使い方…だったら下顎が長い必要ないか。なんでもないです。

*モンスーンが生んだ動物たち

化石ハンター展の説明によると、“中新世後期(約1100万年頃)になると、東アジア南部では、大陸と海洋の温度差により夏と冬で風向がほぼ真反対に入れ替わる季節風の影響が強まり中緯度地域で乾燥化が進む事でプラティベロドンのような疎林的な森林環境を好む動物たちは衰退し、森林を形成するほど湿潤ではないが、砂漠というほど乾燥していない環境に適応した動物たちに置き換わった”という主旨のことが書かれていました。

ヒッパリオン Hipparion と呼ばれるウマのなかま。

樹木のない平原で、河川や湖沼から離れた環境に適応した動物の代表として展示されています。

滋賀県立琵琶湖博物館の所蔵物らしいです。

キロテリウム Chilotherium

ヒッパリオンと共存していた動物。一見キバのある一角犀のようですが…

角の基部となるべき骨の表面が滑らかなので、角はないけど牙がある変わったサイだったようです。まあ現在角もあるサイだけが生き残っているだけで、サイ類全体を見通すと角のあるサイの方が変わっているのかもしれませんが。どのみちこういう鎌状の牙を下顎に生やしたサイは少数派ではあるでしょう。オスの方がメスより牙が大きいらしいですが、この標本がどっちかはちょっとわかんなかったですすみませんごめんなさい。

ディノクロクタ・ギガンテア Dinocrocuta gigantea

史上最大のハイエナ類ということで恐い顔をしています。ほぼ間違いなく骨は噛み砕いていたでしょうよ。中国にこんなクマのようなハイエナがいてサイの骨を噛み砕いていたと思うと美しいですね。

さて、いかがだったでしょうか! 本展はコロナ禍のトラブルで路線を余儀なくされる中で木村先生の機転により、次に紹介するチベットケサイを目玉としつつ『アウト・オブ・チベット説』を日本で紹介する内容を含めるという形になっていたとの裏話が『化石の復元、承ります』に書かれていました。

アウト・オブ・チベット説というのは僕も化石ハンター展で初めて知ったのですが、要するに標高の高いチベットにすでに寒さに適応していた動物たちが、本格的に氷河期が始まったことでユーラシアの高緯度地域に分布を広げていくことができた、という説みたいです。

チベットケサイ Coelodonta thibetanaの親子。左の交連骨格がオスという設定で、勇壮なる角を翳し来場者を威嚇する姿で佇んでいます。

通路のどの角度から見ても睨まれているように感じられるようポーズが工夫されています。

この標本の個体がオスである証拠はないようですが、木村先生の言葉を借りれば、オスは“伊達政宗が兜の三日月が如きツノ”をもっていたという仮説を象徴的に見せるため、オスという事にしたそう。僕的にも大賛成です。

チベットケサイは頭しか見つかっていないそうですが、首から後ろは神流町恐竜センターに常設されているケサイ(ケブカサイ) C. antiquitatis を元に、ゴビサポートジャパンさんが木村先生の指示で良い感じで補正を加えた物を新造して組み立てたものだそうです。

この角は側面が広く、幅が狭いブレード状なので、首を左右に振り雪をかき分けて植物を探すのに使っていたと考えられているそう。闘争にも使ったのでしょうけどね。かっこいいだけでなく複数の用途をもつ便利な道具だったわけです。

こちらは母親(奥)と子どもの生体復元模型なんです。母親は下草を食みつつ子を見守り、子どもは雪にはしゃいでいる姿で復元されています。

まるで剥製のようなクオリティですが、この高いクオリティは一種の偶然の産物であることが『化石の復元、承ります』に書かれています。

交連骨格も含めたこの親子の復元メイキング秘話の数々が同著には書き記されており、読み物としてもアカデミックな意味でも大変面白いので、古生物復元のあれこれやレプリカ交換のテクニックにご興味のある方々には間違いなくお勧めです。(なお、このブログはステルスマーケティングではないです。)

この後、極寒環境に適応した哺乳類たちの展示もあったのですが良い写真がなかったので割愛しちゃいますねすみませんごめんなさい。

さて、数えで4年前の特別展なのですが、みなさんは行かれましたでしょうか。化石ハンター展は前半のゴビ砂漠の恐竜のパートは発見順に並べられているのが良かったです。常設、企画展問わず、多くの恐竜展示は地質時代順(三畳紀→ジュラ紀→白亜紀みたいな感じ)または系統別(鳥盤類・竜脚形類・獣脚類みたいな感じ)または産地別(これも珍しくはある)で展示されているものですが、地域を限定した事もあってか発見順というのが研究史を確認する上でわかりやすかったです。

後半は、アンドリュース隊と直接関係ある化石哺乳類の紹介→アンドリュース隊が残した謎を追求した王曉鳴先生→プラティベロドン動物群の暮らした疎林的な森林環境からステップ環境への変遷→アウト・オブ・チベット→寒冷環境に適応した哺乳類と、展示規模のわりに濃い内容で、いずれも元々予定していた理想の特別展がどんなものかはもちろん存じ上げませんが、妥協の上に立っているとは思えないほど充実した内容だったように思います。

あと展示の一部や監修、キャプション、図録への寄稿に中国の研究者の協力もありました。現在国交が正常なのかどうかよくわかりませんが、たとえ研究者同士の関係が良好でも、外交的な問題で2026年に同じ内容が実現できたかどうか疑問に思います。良い展示・研究のためには平和という基盤が必要という事も記事を書いていて改めて思いました。

じゃあ、これで化石ハンター展レポートは最終回です。

またお会いしましょう。それじゃ👋

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参考文献

  • Kimura, Y. (2022) 『化石の復元、承ります』ブックマン社.
  • 国立科学博物館 (編) (2023) 『化石ハンター展 図録』. NHKプロモーション.
  • Semprebon, G.M., Rivals, F., Solounias, N. and Hulbert, R.C. (2016) ‘Dietary reconstruction of pygmy and normal proboscideans using dental microwear’, Journal of Vertebrate Paleontology, 36(4), e1173558.
  • Lambert, W.D. (1992) ‘The feeding habits of the shovel-tusked gomphotheres’, Journal of Vertebrate Paleontology, 12(3), pp. 367–377.
  • Wang, S., Li, C. and Deng, T. (2013) ‘Functional morphology and feeding adaptation of Platybelodon’, Chinese Science Bulletin, 58, pp. 4200–4207.
  • Ungar, P.S. (2010) Mammal Teeth: Origin, Evolution, and Diversity. Baltimore: Johns Hopkins University Press.

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