ANSP #3 世界に一つだけのハドロサウルス

「私のマイナンバー」は意味がかぶっている。ケラトプスユウタです。

フィラデルフィア自然科学アカデミーの展示物紹介の時間がやってまいりました。

今日は前回までのハンターたちと打って変わってヴィーガンの恐竜を紹介しちゃいたいと思います。

菜食の恐竜といえばまともな感性をもったトリケラトプス至上主義者ならトリケラトプスTriceratops (右)を挙げるでしょうが、当館にはトリケラトプスとは別に代表的な植物食恐竜が展示されています。

それがこの標本。既知のパーツのみで展示されています。完全性貧弱に思えますが、前肢と後肢はほぼ完全で尾椎も比較的よく揃っています(何と比べるかによる)。

(各部の拡大画像が欲しい子がいたら言ってね)

この標本は、ハドロサウルス・フォウルキー Hadrosaurus foulkii と呼ばれる種のホロタイプ(種を設立する基準となった標本)です。

ハドロサウルスはニュージャージー州の州恐竜に指定されている恐竜です。つまりアパラチア大陸(白亜紀当時北米大陸を二分していた二つの大陸の東側の方)の恐竜で、別のハドロサウルス類 Hadrosaur のムカワリュウ Ksmuysaurus と同様、海成層(当時海だったとこの地層)で発見されました。

北アメリカで、歯以外の部分が発見された最初の恐竜標本で、既知のハドロサウルス唯一の標本でもあります。またコープとマーシュの骨戦争の発端になった骨でもあります。

「トリケラトプス」や「ティラノサウルス」と言ったように単に属名を呼ぶ時は、属名をあらわしているのが普通であるところを、このハドロサウルスに関しては後述の理由でより上位の分類であるハドロサウルス科 Hadrosauridae を指して呼ばれることがしばしばあります。

そのような例にはケラトプス Ceratops やティタノサウルス Titanosaurus 、トロオドン Toroodon のような他の例も有りますが、これらはいずれも「科という分類階級の模式属(分類群を設立する基準となった属)」でありながら「疑問名」(独自性が疑わしい標本に基づいた学名)という共通点があります。

けれどもハドロサウルスは2011年からこっちは立派な有効名として知られています。

それでも疑問名感のある呼び名なのは、ホーナー博士らによって他のアパラチア産ハドロサウルス類ともども疑問名とされた経緯があるからでしょうね。まあ化石がご覧いただいた通りの完全性のもの一点のみだから疑問名にされたわけですけど。

これは最初に作られたハドロサウルスのマウントの写真です。公開当時は凄まじい人気だったそうで社会現象にもなったそうです。

そのマウントに付けられていた頭骨の模型。現代人が見ると荒唐無稽に見えるかもしれませんが、イギリスの小型鳥脚類を参考にしたもののようで当時の知見からすればまあ妥当かと。

ちなみにハドロサウルスの研究史や組立骨格の歴史はらえらぷすさんのブログに詳しいのでご興味ある方はぜひご覧ください。

これは珍しいハドロサウルスのマウント。恐竜の展示室から分けられて特別扱いだったので、研究史的価値から大事にされているみたいです

ここ以外では見たことないです。もちろんぜひ頭骨は大部分がアーティファクトで、鼻骨にクリトサウルス的な特徴が与えられていますが直接証拠はありません。

この黒板は様々な古生物画家が定期的に代わる代わるハドロサウルスの生体復元図を描いては消してを繰り返しているものです。

このオカピハドロサウルスはクリス・D・ピアッツァ Chris D Piazza 画伯によるもの。

「ハドロサウルス」を呼ぶ時はハドロサウルスのこともたまには思い出してください。

今日はここまで。それじゃ👋