遊びは終わりだ!ケラトプスユウタです。
今回は去年11月に行った福井県立恐竜博物館の特別展のレポートをやります。夏から1月10日まで開催していたので会期中にやりたかったのですが、ほんの20日ほど過ぎてしまいましたね。申し訳ございません!
その特別展というのが「海竜 -恐竜時代の海の猛者たち-」というタイトルで、要するに中生代の海棲爬虫類にフィーチャーしたものでした。ちなみに“海竜”という名称は恐竜と違ってそういう単系統群があるわけではなく、人や施設によって定義というか指している物が違う概念で、ここでは「中生代の海棲爬虫類のうち、近縁種が現在まで生き残っていないもの」とされていました(「近縁種」って曖昧ですよね)。なのでウミガメや海ワニなんかは海竜ではないそうです。余談ですが、モササウルス類(Mosasaurid)だけを海竜と呼んだり、クジラを含めたり人によってまちまちです。
独り言はこのくらいにして展示物を見ていってしまっちゃいたい!

頭から尾までの全身骨格。三枚の写真は部分的にオーバーラップしていてパースが異なる点にご注意ください。
タラットサウルス類(Tharathosaurid)という三畳紀のウナギ型の爬虫類のひとつ。タラットサウルス類は魚竜類(Ichthyosauria)に比較的近縁らしいですが、魚竜と違って胸鰭が小さく体が細長いのでまさにうねるようにして泳いだことが想像される一品ですね。

中期三畳紀の小型の魚竜。すでに綺麗な紡錘形をしていますが、系統的には魚竜類の基盤的位置付けのようです。半水棲の両生類から陸生の爬虫類が派生してから5000万年未満で魚竜の祖先は水中へ戻ったわけですから、陸に適応してから一瞬にして陸で生きることをやめたみたいでそこが面白いと感じます。

上側頭窓がはっきり見えて眼窩は確認できない事から上下方向に潰れているのがわかります。魚竜は左右に潰れた標本を見る機会が多い中、珍しい気がします。よく知りませんが、本種はシャスタサウルスとする説とグイジョウイクティオサウルスとする説があるようです。どちらにせよ、この頭の持ち主が三畳紀の海の上位の捕食者だった事は間違いなさそうです。

後期三畳紀の中国の鰭竜類・板歯類・プラコドン類の動物。皮骨でできた甲羅がありますが、機動力よりも防御力を高めるという戦略で外敵の多い海に適応したようです。なおカメとは近縁ではないです。


先述のキアモドゥスと同じキアモドン類ですが、歯がなく先細りになっている口が全然違いますね。甲羅はキアモドゥスよりも細かい皮骨で構成されているように見えますが、基本的には同じようなものですね。

板歯類かと思いきやサウロスファルギス類(Saurosphargid)なる海棲爬虫類の一種。サウロスファルギス類と板歯類は歯の形が決定的に異なるとの事でしたが、残念ながら歯の展示はなかったです。

やや長い胸鰭が特徴の三畳紀の魚。トビウオのように水面から飛び出して滑空したと考えられているとキャプションにありましたが、この標本だけ見るとトビウオよりカサゴに似てるように見えるのでまったく想像できません。飛ぶには体も胸鰭も短すぎるように思いましたがいがかですか!?

ケイチョウサウルスといえば中国で良好な化石が多く見つかるからか、ネットオークションなどで化石と称した模造品もよく売られているやつです。エラスモサウルスやプリオサウルスのような首長竜類を含む始鰭竜類(Eosauropterygia)の初期のものですが、始鰭竜類は首が長いのが基盤的形質っぽいですね。


魚竜に興味のある日本人は多くの方がご存知でしょう。宮城県南三陸町の大沢層で1970年に発見された三畳紀の魚竜で日本の天然記念物に指定されています。四肢の骨が長いなど陸棲だった頃の名残があり、背鰭があったかどうかは謎のようです。ウタツサウルス属と同定されている化石は宮城だけでなくアメリカやカナダでも報告されており、広範囲に分布していたらしいです。ちなみに大沢層の化石は1990年に何者かによって一部が盗掘され行方不明だそうです。みなさん盗掘は迷惑なのでやめましょう。

2016年に大沢層で見つかり2020年にオムファロサウルス類ではないかと報告された頭骨の一部。オムファロサウルス類はよく知りませんが、魚竜に近縁と言われているそうです。断片的な化石しか知られておらず、まだまだ多くの謎に包まれた存在とのこと。

上述のグイジョウイクティオサウルスはシャスタサウルスかもしれないと言いましたが、このS・シカニエンシスもシャスタサウルス属とする意見があるみたいです。

魚竜と聞いて思い浮かべるような魚竜の姿。三日月型の尾鰭はモササウルス類と同様、下側に尾椎が通っていますが、肺呼吸のために海面へ向かう要求量が大きかったことを表しているのではないかというのが僕の持論です。

ムカシトカゲと近縁だという後期ジュラ紀の海棲爬虫類。ウナギのように体をくねらせて泳いだと言われていますが、小さい前肢に対して後肢は大きいので遊泳に関してそれなりの役割を持っていた風に見えます。

クビナガ竜としても海棲爬虫類としても代表的なものの一つが出てきました。エラスモサウルス類の中ではタラッソメドン(Thalassomedon)に次いで見る機会が多いと思います。丸呑みにされるようなサイズではないですが、あまり一緒に泳ぎたくはないタイプの動物です。


アルベルトネクテスは推定全長11mに及ぶ最長のエラスモサウルス類で、頸椎(首の骨)は75個(環椎を含めると76個)と既知の動物の中で最も数が多い事で知られています。エラスモサウルスより650万年くらい新しい時代(7350万年前)の西部内陸海路に生息していました。

ジファクティヌス(Xiphactinus sp. )。当ブログではおなじみブルドッグフィッシュ。顎だけだとブルドッグというより肉食獣脚類みたいな顎をしていますね。展示標本にはポストクレイニアル(首から後ろ)もありました。

海外の博物館ではよく目にしますが、日本では同じプロトステガ類(Protostegid)のアルケロン(Archelon)より珍しいかもしれません。このように甲羅で守っていてもモササウルス類のようなウミトカゲやジファクティヌスのような大型魚類が天敵だったと言われています。






1911年にカンザス州でバンカー(Bunker)さんという人が発見し、その方に因んでバンカーというニックネームが与えられた個体のレプリカ。本属では最大個体(推定全長12〜13m)らしいです。ちなみに実物はカンザス大学自然史博物館所蔵です。

当展サブタイトルに「海の猛者」とありましたが、モササウルス属(Mosasaurus)の展示はなかったですね。それを同伴者に言ったら「世間的には“モササウルス類(科)”は“モササウルス”なんだわ」だそうですよ。確かにそうかもしれません。ちなみにモササウルスとティロサウルスを一撃で見分ける特徴は、口先の際まで歯があるかどうかで、ないのがティロサウルスらしいです。
これらの他、アンモナイトやエオティランヌス(Eotyrannus)などなどの展示がありましたが、気が向いたら後日掲載しようと思います。
さて!恐竜と同じ中生代に生きた海の動物たちですが、これまでいろいろな恐竜展を観てきた僕も彼らにフィーチャーしたものは初めてでした。これは今まで僕が恐竜展にばかりまかり出て、海棲爬虫類に目もくれなかったという訳ではなく、単に海棲爬虫類の特別展が開催されて来なかった為でしょう。海棲爬虫類といえば恐竜よりも研究史が長く、一般的に海成層は陸成層よりも化石の保存が良いはずなので、今まで恐竜展は数多開催されても海棲爬虫類にフィーチャーした特別展はほとんど開催されてこなかった事は、はっきり言って需要の差という気がしますね。研究史が長く良好な標本が多く存在するという理屈で特別展が頻繁に開催されるなら、昆虫展や植物展がもっと開催されるはずですからね!あんま言うとあれか。いかに恐竜が人気かという事がわかるとも言えますね。ありがとうございます。
「ごあいさつ」によると今回FPDMさんが本展を企画された背景には、SDGsの存在があるそうです。SDGsの「14 海の豊かさを守ろう」を開催理念とし、古代の海洋生物を通して海の偉大さや尊さを再認識させる狙いがあるとか(それを読むと「15 陸の豊かさを守ろう」を理念にしていつも通り恐竜でも良かった気がしますが)。文句を言うわけではありませんが、ウナギ不買運動をしている身としては、せっかくなので「自然の成り行きで滅んだ海洋古生物」、「人為で絶滅した海洋生物」、「現在絶滅危惧種である海洋生物」も取り上げていただければ理念がよく伝わったのではないかなと思います。どうあれ展示されていた標本はどれも素晴らしいものでした。本展に関わられた全ての方々にこの場を借りてお礼申し上げます。
それじゃ👋