AMNH #14 危ない角竜 禁断の頭蓋骨

さっさと達者で暮らせ。ケラトプスユウタです。

AMNHの偉大なケラトプス類 Ceratopsid 紹介のお時間がやってまいりました。よろしくお願いします。

ペンタケラトプス・ステルンベルギPentaceratops sternbergi のホロタイプ

AMNH 6325 (「無残に5本」でおぼえてます)

1922年にチャールズ・ヘイゼリアス・スタンバーグ父さんがニューメキシコ州のカートランド層 Kirtland Formation (カンパニアン後期 7550万〜7300万年前)で発見した頭骨です。

ほぼ完全ですが、左右に圧縮されていて、頭頂骨は「だいたいこんなかんじでよかんべ」と作られたアーティファクトです。

「5本角の顔」という意味で、トリケラトプスと共通の3本の角に、左右の頬骨突起を加えて5本という計算です。確かにこの標本では角のように尖っていますが、フィーリング的にはこれを角に含めたくはないです。あと大半のペンタケラトプス標本ではこの部分は特に他のケラトプス類と比べて尖っちゃぁいません(というかAMNH 6325自体も記載論文を見る限りでは頬骨突起は尖ってはいません)。失礼します。

続きましてこちらの勇壮な頭骨コレクション。

左からセントロサウルス・アペルトゥス Centrosaurus apertus AMNH 5239「カスモサウルス・カイセニ」“Chasmosaurus caiseni” AMNH 5401カスモサウルス・ベリ Chasmosaurus belli AMNH 5402 (キャプションに隠れてますが後で別アングルのを載せます)。

AMNH 5239 (手前)は、1914年にブラウン先生とカイセンさんがカナダ・アルバータ州・スティーヴヴィル Steveville で発見したもの。

この方を紹介するのも初めてではありません。UMNHの角竜の壁でもキャストが展示されていました。ですが、鼻角の復元など細部のデザインが異なります。

追記: ヒロくんからご指摘いただきました。UMNHのが ROM 767 という標本では別物でした。訂正してお詫び申し上げます。

一応「モノクロニウス・フレクスス」“Monoclonius flexus” (セントロサウルス・アペルトゥスのジュニアシノニムのはず)のホロタイプとしても知られております(参考文献)。ので、この方を便宜的にフレクススと呼ぶのもアリではあるかと。

フレクススから見て左前にある標本。

AMNH 3999

「モノクロニウス・レクルヴィコルニス」“ M. recurviconis” のホロタイプ。

モンタナ州ドッグクリークのジュディスリバー層 Judith River Formation (カンパニアン期(8490万〜7060万年前))(参考文献)。

モノクロニウスどころかおそらく属不明のカスモサウルス亜科と捉えるのが普通だと思いますが、前傾した鼻角と比較的目立つ上眼窩角、鼻角の後ろの一対の低い突起が気になります。エウセントロサウラ Eucentrosaura において前傾した鼻角は老齢の、長い上眼窩角は原始的形質なので若い個体の特徴のように思えるので間違ってもこの標本がエウセントロサウラに属するということはないでしょう。

AMNH 5402 (手前) はよーく見ると縁鱗状骨が9個あって普通のカスモサウルス・ベリより1個多いです。カスモとしては比較的上眼窩角がはっきりしていることもありますし、縫合線も明瞭なので若い個体なのかもしれません。

キャンベル博士らの2019年の論文ではベリではなくカスモサウルス・イルヴィネンシス C. irvinensis (ヴァガケラトプス Vagaceratops)っぽい種不明のカスモサウルスとされていましたのでちょっと分類がおぼつかない部分があります。

カスモサウルス・カイセニと上述しましたこの AMNH 5401 は東ユタ大学のカーペンター博士に伺ったところによると「カスモサウルスではない」とのこと(根拠は上眼窩角が長すぎるから)。たしかにやや側方に長く伸びた上眼窩角はカスモサウルスとすれば珍しくはあります。またロングリッチ博士らが2010年のケラトプス類命名ラッシュの一翼を担った「モジョケラトプス・ペリファニア」“Mojoceratops perifania” を記載する際に基づいた標本の一つでもあります。しかしながらですね、これが実を言いますとAMNH 5401 の縁頭頂骨は未発見でありまして、別のカスモサウルスの標本のものを参考にしたアーティファクトで補完されています。この事が長いこと研究に混乱を生じさせておりました。ケラトプス類の同定において非常に重要である縁頭頂骨を欠く本標本をモジョケラトプスとする事は不可能と指摘され、カスモサウルス・カイセニも疑問名(この標本に言及する時くらいしか話題にもならない)と考えられています。

追記: そうそう、キャプションではカイセニですが、カイセニはラッセリ C. russelli のシノニムと考えるのが一般的です。と言ってもベリとラッセリを分ける特徴が頭頂骨であるところ、AMNH 5401 は頭頂骨が未発見なので実際わからないというのが本当のところじゃないかなと思います。


カッコ良くも美しく、曰く付きの凄まじい展示がこんなに集められているとはさすがアメリカ自然史博物館と呼ばれるだけのことはありますなと言った所。

今日はここまで。まだまだ続きます!